今だから読みたい橋本紡

橋本紡というと、twitterで嘘を並べる痛い元ラノベ作家という印象を抱いてる人も多いと思うのですが(参考: ここがヘンだよ橋本紡 - Togetter)、それでも、『リバーズエンド』『半月』は素晴らしかったんだよ、というのがこのエントリです。

まずは、簡単に橋本紡の来歴を

橋本紡は、1998年、第4回電撃ゲーム小説大賞で金賞を受賞した『猫目狩り』でデビュー。第4回電撃ゲーム小説大賞では他に、大賞に上遠野浩平の『ブギーポップは笑わない』、銀賞に阿智太郎の『僕の血を吸わないで』も選出されています。

そのデビュー作の『猫目狩り』は、ウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』のオマージュ。『ニューロマンサー』は、サイバーパンクの代名詞的とも言われている作品です。ただ、この『猫目狩り』は、『ブギーポップは笑わない』『僕の血を吸わないで』と比べるまでもなく、当時、ほとんど話題にもならず、売り上げもいまいちだったようです。

続く二作目は、銀河連邦軍の最新鋭艦に惚れられてしまった高校生のドタバタラブコメ『バトルシップガール』(→感想)。第一巻の発売は2000年。外伝も含めて7冊出ています。売れ筋を意識して狙ったような、一昔前のライトノベルらしいライトノベルで、これはそこそこ売れたようです。ただ、売れ筋を狙っただけで、内容としては出来がいいとは言えず、売れ行きの割りに、あまり話題にはならなかった、というのが私の認識です。

『猫目狩り』『バトルシップガール』とも、今の橋本紡からは想像もつかないような作品で、作者もファンも、できれば、黒歴史として封印して置きたい作品だと思うのですが、続く『リバーズ・エンド』『半分の月がのぼる空』こそ、橋本紡を人気作家として押し上げ、ライトノベル史上でも傑作と名高い作品となります。

リバーズ・エンド

橋本紡の三作目の作品となる『リバーズ・エンド』(→感想)。第一巻の発売は2001年で、外伝含めて6冊出ていますが、中でも評価が高いのが1巻。ストーリーは、一通のメールで知り合い、心を通わせていく拓己と唯。ただ、唯には秘密があり、悲しい出来事があり、やがて死を迎える……、というような、切なく儚く残酷な内容。たどり着いた川の終わりで、死を迎えようとする唯とそれを見守る拓己のシーンからはじまる構成で、待ち受ける哀しさと切なさを匂わせつつ、拓己と唯の出会いからやがて心を通わすようになる物語を、少女小説のような詩的で繊細な筆致で描かれていて、これがほんとに素晴らしい。子猫を巡る切なく残酷なエピソードも秀逸で、高野音彦の繊細なイラストもあいまって、非常に素晴らしい作品に仕上がっています。

ただ、巻が進むにつれて、「人類の未来をかけて、最終決戦」みたいな程度の低い SF要素が増えていくのが非常に残念なのだけど、その SF要素を排し、今の橋本紡の作風を確立させたのが、続く『半分の月がのぼる空』になります。

半分の月がのぼる空

『半分の月がのぼる空』(→感想)は、アニメ化、ドラマ化、映画化もされた、まさに橋本紡の代表作。第一巻は2003年に発売されました。内容は、入院した病院で、一人のわがままな女の子と出会う、という、SFもファンタジーもオカルトもない、当時のライトノベルでは珍しい純然たる青春ラブストーリーでした。時代背景として、『ONE』や『Kanon』といった泣きゲーのブームがあったとは言え、苦手としていたSF要素を排除できたことは、橋本紡にとって福音となり、その後、ライトノベルを去り一般文芸に進むきっかけにもなります。

その『半月』。急性肝炎で入院した主人公の裕一は、その病院に長期入院していた清楚で美人な女の子・里香と出会うが、その里香は王女さまのようにわがまま。ただ、里香のわがままにはもちろん理由があり、里香は心臓疾患のため余命が短いという、いやもう、手術をすれば助かる可能性があるものの、手術が怖く手術しないと余命が短い、典型的なツンデレわがまま病弱娘って、それ、どんだけ卑怯でベタな物語なんだ!? いや、だからこそ、時代に不変な感動的青春恋愛ストーリーに仕上がっているわけです。

橋本紡は、この『半月』を最後にライトノベルを卒業して、2005年の『猫泥棒と木曜日のキッチン』(→感想)以降、一般文芸にその活躍の場を移し今に至ります。まあ、一般文芸に移って以降の作品は、正直、パッとしない作品が多いという印象なのですが、『リバーズエンド』『半月』は、今のラノベ読者にも読んでほしい素晴らしい作品だと思っています。

[ 2012.07.14 ]

  このエントリーをはてなブックマークに追加