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朝日新聞社 ソノラマノベルス
キマイラ青龍変 <キマイラ>別巻 /夢枕獏

キマイラ吼シリーズは、まさに今のライトノベルの礎を築いた、ライトノベルの中のライトノベルである。第一巻の『幻獣少年キマイラ』が発売されたのが1982年。シリーズ開始から27年たってなお終わりの見えない、ライトノベルの中でもっとも古くから続いている作品の一つでもある。

キマイラ吼シリーズが出る前、1970年代までは、子供向けのジョブナイルから卒業すると、中高生の読む小説といえば、SFかミステリ、はたまた歴史小説といった一部のマニア向けの小説しかなかった。そこへ10代がほんとに楽しめる小説を標榜して、10代向けにもかかわらず、低俗な「エロスとバイオレンス」を持ち込んだのが、のちにライトノベルと呼ばれるようになる一群の10代向けエンターテイメント小説である。90年代になると、やがて「エロ」は「萌え」に取って代わられるようになるが、80年代のライトノベルはすべからくエロい漢の小説であった。その漢の小説の代表作こそ、このキマイラ吼シリーズなのだ。

ここで簡単にキマイラ吼シリーズのストーリーについて説明すると、主人公の大鳳吼は、友人以上恋人未満な織部深雪と語らう幸せな高校生活を送っていた。しかし、不良たちとの諍いをきっかけに、内に秘めていた「幻獣キマイラ」の力を目覚めさせ、やがて、その力に振り回されていく……、という感じで、今で言えば、学園異能の分類される。というより、このキマイラ吼シリーズこそが、現在の学園異能の源流の一つにあたる。

と言っても、この『キマイラ青龍変』は、「キマイラ」の名前を冠してこそいるが、主人公の大鳳吼をはじめ、織部深雪も、九十九三蔵も、真壁雲斎も、久鬼麗一も登場しない。あくまで、大鳳吼の敵として登場した龍王院弘とその師匠・宇名月典善の物語である。

龍王院弘は、もともと大鳳吼を追う敵として登場するが、主人公に立ち塞がる敵役の習いとして、三蔵に負け、ボックに破れ、物語から退場していくかに見えたがそこで終わらない。キマイラ吼シリーズと関連の深い『闇狩り師』の「崑崙の王」で、自信喪失に悩みつつも、三蔵の兄・乱蔵とタッグを組み、無事に復活することになる。いや、龍王院弘は、挫折を経ることにより、より味のある魅力的なキャラクタに生まれ変わったのだ。そして、単なる天才ではない、こういう泥にまみれた拳法家の漢を描くことこそ、夢枕獏の真骨頂ともいえる。

この『キマイラ青龍変』は、その龍王院弘の若き日の物語である。師匠・宇名月典善との出会い、二人での放浪の日々、そして、修羅の門をくぐるに至る経緯。非常にあついあつい熱を持った格闘小説である。

[ 2009.07.07 ]