好きなら、言っちゃえ!! 告白しちゃえ!!


2023 9 11

KADOKAWA 電撃文庫
ウィザーズ・ブレインX 光の空 /三枝零一

完結。完結したのは素晴らしいけど、うーん。

『ウィザーズ・ブレイン』って、一人の魔法士の少女と1000万人の市民のどちらを救うか?という典型的なトロッコ問題が絶対的なテーマで、両者を救うような奇跡は起きない絶望的な世界で悩みながらも選択をしその選択に後悔しながらそれでも前に進む、ということをずっと描いてきたわけよ。

この世界の人々に誰も悪者はいなくて、みんな本当は魔法士も市民も両方とも救いたいのに、それぞれに選択を迫られそれぞれの陣営に分かれて戦っていたのよ。で、今回の選択は、どちらの陣営を絶滅させるかという今まで以上に過酷な選択で、仮にここで第三の道を選ぶのであれば、今まで以上にきちんと説得力のある選択と結果でないとありえないと思うんですよね。

もともと人類の滅亡をわずか数十年先延ばしするためだけに魔法士の犠牲者を強いるような絶望的な世界だったけれど、シリーズ終盤で描かれた魔法士と「シティ」の戦争は、両陣営のあらゆるリソースを使い果たし、いよいよ滅亡寸前まで人類を追い詰めたわけですよ。ベルリン、マサチューセッツは落ち、シティ連合は瓦解。賢人会議も多くの負傷者と離反者をだし崩壊寸前。どちらかが勝てば気象は戻るけど、単なる引き分けは選択から逃げただけでしかなく、結局、1巻の頃と比べて凄まじく状況は後退している。そして、もちろんなにも解決してない。

うーん、結局、安易なハッピーエンド。安易なだけのハッピーエンドなんだよなぁ。

[ ウィザーズ・ブレイン ]


2023 9 4

KADOKAWA
幼女戦記(1) Deus lo vult /カルロ・ゼン

BOOK☆WALKERでセールだったので購入。セールは9/7(水)まで。

『幼女戦記』といえばTVアニメ化もした人気シリーズで、異世界TS転生、俺TUEEEEEEモノ。転生先が中世近世ではなく近代大戦期のドイツっぽい国というのが特徴。なろう系異世界転生はたくさんあるけど、世界大戦の時代への転生モノはあまりないよね。

アニメはきちんと小説通りに作っていたらしく、ストーリーはだいたい記憶にある通りに進むのだけど、驚いたのは、めちゃくちゃ読みやすいのよ。いやー、蘊蓄多めで設定もそこそこ複雑だと思うのだけど、にもかかわらず、サクサク読める。普通に書いたら絶対読みにくい内容になると思うんだけど、明らかに文章がうまいよね。素晴らしい。

面白さはアニメと一緒で、元人事課長らしい合理的な内面と幼女の見た目のギャップ、その内面と見た目のせいで過度に誤解されて翻弄される展開が、ほんとおもしろい。ターニャは内面化物みたいに言われるけど、わりと現代サラリーマン的な思考でしかなく、やっぱ狂ってるのは世界の方なんだよなぁ。あー、でも、アニメと比べると、ターニャの幼女的な側面はかなりスポイルされているし、ヒロインのヴィーシャの存在感が薄い感じがする。そこら辺はちと残念。

それにしても、やたら辻政信をいぢりすぎだろ(笑)。わからんわけじゃないけどさー。

[ 幼女戦記 ]


2023 8 15

早川書房 ハヤカワ文庫JA
グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船 /高野史緒

良質な青春SFなんだけど、なんで舞台に茨城県の土浦をチョイスしたっ!? 物語の仕掛け上、リアリティある街の描写が凄く生きるのだけど、土浦の街並みを知ってる人ってどんだけいるんだ?

いやー、土浦って、魅力度ワースト1位の茨城の中でも、名物らしいものが何も思いつかない街だと思うんですよ。ほんと、なんで土浦?と思ったのだけど、あとがきによると、あー、私小説として書いたのかー。調べると作者の高野史緒って、土浦二高出身なのね。だから、主人公は土浦二高に通っているのか。

で、青春SFとしてはわりとベタ。そこがまた素晴らしいんだけど。

子供の頃に不思議な経験をした二人を交互に描きながらやがて二人の運命が交錯していくタイプの物語で、アニメ映画『君の名は。』あたりを思い出す人も多そう。90年前に土浦で墜落した飛行船グラーフ・ツェッペリン号。その存在しないはずの飛行船を子供の頃に一緒に見た夏紀と登志夫。この夏紀と登志夫の日常を交互に描きながら物語は進行するのだけど、夏紀がパソコン部でフロッピーディスクを使ってWindowsをインストールするのに苦戦したりするのに対して、登志夫は光量子コンピュータの研究所でアルバイトをしていて、明らかに時代が違う。

秀逸なのは夏紀側の日常の見せ方で、フロッピーディスクを使ってWindowsをインストールするというレベルの気持ち悪い違和感の作り方がすげーのよ。いや、Windowsって95の時にはギリギリFD版もあったかもしれないけれど主流はCD-ROMになっていたはずで、こういう風に、記憶的に違和感があるのだけど調べないといまいち確証できないような、ちょっとした違和感が随所に仕込まれてるのよ。この気持ち悪さがわかるのって、90年代のパソコン、初期のインターネットを知ってる世代だけだと思うのだけど、土浦を舞台に選んだことといい、狭い、凄く狭いよ、ターゲットがっ!! で、その違和感を積み上げて見せてくる夏紀の世界が凄く上手い。

ただ、そんな秀逸な夏紀の日常なのだけど、後で早川書房の紹介を見たらはじめからネタバレが書いてあって、早川の担当は何を書いてるんだ? それを書いたら台無しだろ。

オーソドックスな青春SFとして仕立てている前半はほんとに素晴らしいのだけど、後半は幾分駆け足で強引なのが、ちょっと残念。いや、せつなく感動的な話ではあるんだけどね。だからこそ、凄くもったいないと思ってしまう。

うーん、この作品、元になった短編があってそれを長編に仕立て直した作品なのだけど、元になった短編を読むと、短編では違和感ない部分が、この長編の中では凄く無理やり感が強くなっちゃってるのよね。後半は短編のいい部分を活かすように流用部分が多いのだけど、そこは思い切って後半も全面的に書き直しで良かったんじゃないかなー。

[ グラーフ・ツェッペリン ]

ろぐ

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