空の中


角川書店 角川文庫
空の中 /有川浩

だはははははっ、これは酷い。思わず笑ってしまうぐらいに、酷すぎる。いやもう、現実世界をベースにしたSFという点では、ギャグでやってるとしか思えないぐらい、嘘のつき方が下手で、ツッコミどころが満載なのよ。……まあ、人間ドラマとしては悪くないので、白鯨も自衛隊も出さずに、素直に、その人間ドラマだけを書いてくれれば良かったのに。

いや、巻末に収録されている、SF的要素のない「仁淀の神様」なんかは、ホント、凄く良い話なんだよね。なんで本編の方は、ゴミにしかなってない SF要素を入れてしまったんだろうなぁ。

そゆわけで、電撃文庫デビューにもかかわらず、その後、ハードカバーに転向した有川浩。そのハードカバーで出てた『空の中』が、やっと文庫落ちしたので、読んでみました。ある日、海辺で謎の生物を見つけた少年、瞬は、UMA愛好会所属の幼なじみ、佳江と一緒に、その謎の生物を育てることになるが……。という感じで、謎の生物との出会いを通じ、成長する少年を描いたジョブナイル。

や、少年の成長物語としては、なかなかに良質。謎の生物、フェイクとの交流も、せつない佳江への恋心も、いい味が出ていて良かったです。いやもう、宮じいの存在なんかも心温まる。……ただ、なんですか、このツッコミどころ満載な内容はっ!! もう、読みながら何度、これ現代日本が舞台なんだよね? リアル世界を描いてるつもりなんだよね? ギャグでやってるんじゃないよね? と思ったことか。一言で言えば、悪い意味でセカイ系。実在の組織が登場し、世界に広がる話なのに、主人公周辺以外がまともに書けてない。あえて書かないのではなくて、書こうとしてるんだけど組織も社会もおままごとのようにしか書けてない。いくらキャラ重視の人間ドラマメインの物語だといったって、ここまでリアリティがないのはあまりに酷いと思う。

[ 2008.07.06 ]