神曲プロデューサー


集英社 集英社文庫
神曲プロデューサー /杉井光

雑誌「小説すばる」に2011年〜2013年にかけて掲載されていた作品で、音楽業界で売れずに何でも屋として生きている青年とカリスマ歌姫の恋愛のようで恋愛でない物語。いやまあ、『楽園ノイズ』に登場する蒔田シュンと海野リカコの物語なんですけどね(^^;。

「小説すばる」掲載ということで、『さよならピアノソナタ』や『楽園ノイズ』のような高校生メインの青春小説というわけではなく、主人公の蒔田は30歳。ただ、作中で「高校生からかわらない」と言及されてるように、ぜんぜん大人らしい主人公を描くつもりがなくて、もう、いつもの杉井光の主人公ですよ。というより、いつも以上にヘタレで大人な感じはしないよなー。

まあ一応、大人らしいところもあって、それは、音楽が生活費を稼ぐ手段になってる辺りか。ここら辺は、生活が保障されている高校生とは明らかに違う。特に蒔田は、音楽が好きで業界に進んだわけではなく、バイトで雑誌社に入ったら、作ってる雑誌がたまたま音楽系で、そこで雑用をこなすうちに何でも屋のような立ち位置になったという来歴。あくまで音楽は仕事の延長なんですよね。

『楽園ノイズ』では、すでに亡くなっている蒔田だけど、いやぁ、前の作品の主人公を殺すとかすごいな、杉井光。てっきり、『神曲プロデューサー』で病気の描写みたいなものでもあるのかと思っていたのだけど、死にそうな要素はなんもないんだよなぁ。

しかも、蒔田が亡くなったのは『楽園ノイズ』の前年。『神曲プロデューサー』のラストから亡くなるまで10年ぐらいあるはずなんだけど、『楽園ノイズ』を読む限り、その10年で音楽的な業績を残しているわけではなく、リカコとの仲が進展してるようでもない。『神曲プロデューサー』では着実に実績を重ね、関係を深め、これからも未来があるように描かれていたので、さすがにこれはちょっと。せつなすぎるだろ……。

[ 2025.08.31 ]