グラーフ・ツェッペリン


早川書房 ハヤカワ文庫JA
グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船 /高野史緒

良質な青春SFなんだけど、なんで舞台に茨城県の土浦をチョイスしたっ!? 物語の仕掛け上、リアリティある街の描写が凄く生きるのだけど、土浦の街並みを知ってる人ってどんだけいるんだ?

いやー、土浦って、魅力度ワースト1位の茨城の中でも、名物らしいものが何も思いつかない街だと思うんですよ。ほんと、なんで土浦?と思ったのだけど、あとがきによると、あー、私小説として書いたのかー。調べると作者の高野史緒って、土浦二高出身なのね。だから、主人公は土浦二高に通っているのか。

で、青春SFとしてはわりとベタ。そこがまた素晴らしいんだけど。

子供の頃に不思議な経験をした二人を交互に描きながらやがて二人の運命が交錯していくタイプの物語で、アニメ映画『君の名は。』あたりを思い出す人も多そう。90年前に土浦で墜落した飛行船グラーフ・ツェッペリン号。その存在しないはずの飛行船を子供の頃に一緒に見た夏紀と登志夫。この夏紀と登志夫の日常を交互に描きながら物語は進行するのだけど、夏紀がパソコン部でフロッピーディスクを使ってWindowsをインストールするのに苦戦したりするのに対して、登志夫は光量子コンピュータの研究所でアルバイトをしていて、明らかに時代が違う。

秀逸なのは夏紀側の日常の見せ方で、フロッピーディスクを使ってWindowsをインストールするというレベルの気持ち悪い違和感の作り方がすげーのよ。いや、Windowsって95の時にはギリギリFD版もあったかもしれないけれど主流はCD-ROMになっていたはずで、こういう風に、記憶的に違和感があるのだけど調べないといまいち確証できないような、ちょっとした違和感が随所に仕込まれてるのよ。この気持ち悪さがわかるのって、90年代のパソコン、初期のインターネットを知ってる世代だけだと思うのだけど、土浦を舞台に選んだことといい、狭い、凄く狭いよ、ターゲットがっ!! で、その違和感を積み上げて見せてくる夏紀の世界が凄く上手い。

ただ、そんな秀逸な夏紀の日常なのだけど、後で早川書房の紹介を見たらはじめからネタバレが書いてあって、早川の担当は何を書いてるんだ? それを書いたら台無しだろ。

オーソドックスな青春SFとして仕立てている前半はほんとに素晴らしいのだけど、後半は幾分駆け足で強引なのが、ちょっと残念。いや、せつなく感動的な話ではあるんだけどね。だからこそ、凄くもったいないと思ってしまう。

うーん、この作品、元になった短編があってそれを長編に仕立て直した作品なのだけど、元になった短編を読むと、短編では違和感ない部分が、この長編の中では凄く無理やり感が強くなっちゃってるのよね。後半は短編のいい部分を活かすように流用部分が多いのだけど、そこは思い切って後半も全面的に書き直しで良かったんじゃないかなー。

[ 2023.08.15 ]