好きなら、言っちゃえ!! 告白しちゃえ!! - 2023年8月


2023 8 11

KADOKAWA カドカワBOOKS
サイレント・ウィッチVI 沈黙の魔女の隠しごと /依空まつり

いいところで次巻に引くなー。続きは冬かー。

正体を隠して学園に潜入する、「沈黙の魔女」ことモニカの活躍を描いた『サイレント・ウィッチ』も6巻目。第二王子で生徒会長のフェリクスが「沈黙の魔女」の正体を探り、生徒副会長のシリルもモニカに違和感を抱く中、モニカの正体を知るディーが転校してきて……、という感じで、だんだんモニカの秘密がバレつつあるなー。ただ、ラスボスのクロックフォード公爵はようやく顔を見せた程度で物語の展開はまだまだこれからなんだよなー。

まあ、今回は、いろいろな仕込みをするのがメインで、大きな山場もなく終わってしまった印象。いや、ディー先輩とのアレコレはあったけどさー。魅せ場としては、イザベルが最高だった。何はともあれ、早く続きが読みてー。

[ サイレント・ウィッチ ]


2023 8 12

KADOKAWA カドカワBOOKS
家を追い出されましたが、元気に暮らしています ~チートな魔法と前世知識で快適便利なセカンドライフ!~ (1) /斎木リコ

カクヨムで読んでて好きだったので購入。書籍化でイラストがついたのだけど、主人公のレラや幼なじみのコーニーはともかく、ヒーロー役であるユーインは、普通に線が細いイケメンに描かれていて、ちょっち違和感あるな。寡黙な黒騎士なので、もっとガタイがいい感じでイメージしてたよ。

内容は、サブタイトルの通り、チート魔法と前世知識で無双する物語。元々はメインタイトルの感じで、親に捨てられて辺境で育った田舎娘がお嬢様の集う貴族の学校で騒動を起こすようなタイプの物語を狙ってたんだと思うんだけど、親に捨てられたことで公爵家の中でも特に家格が高い一族に家族同然に育てられた設定なので、はじめからコンセプト崩壊してるんだよな。それでも物語のはじめの頃は、チート要素は抑え気味だし、親に捨てられた辺境出身の少女ということで差別を受けたりするけど。……でも、差別してきた相手は、魔法と物理でわからされて、さらに公爵家の権力で一族もろとも潰されるので、ざまぁを超えて、オーバーキルな恐怖政治感がめちゃくちゃ強い。ここら辺は、ちょっと好みが別れるよね。

それはともかく、女主人公の一人称形式の筆致で、魔力チートと前世知識を使って貴族学校で無双していくさまは、人気作の『本好きの下剋上』と似た読み味が会って、個人的には好きなんですよね。この第1巻ではカクヨムの第25話分まで収録されてるのだけど、カクヨムの方には今現在で400話ほど。どこまで書籍化されるのかしらん。

[ 家を追い出されましたが、元気に暮らしています ]


2023 8 15

早川書房 ハヤカワ文庫JA
グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船 /高野史緒

良質な青春SFなんだけど、なんで舞台に茨城県の土浦をチョイスしたっ!? 物語の仕掛け上、リアリティある街の描写が凄く生きるのだけど、土浦の街並みを知ってる人ってどんだけいるんだ?

いやー、土浦って、魅力度ワースト1位の茨城の中でも、名物らしいものが何も思いつかない街だと思うんですよ。ほんと、なんで土浦?と思ったのだけど、あとがきによると、あー、私小説として書いたのかー。調べると作者の高野史緒って、土浦二高出身なのね。だから、主人公は土浦二高に通っているのか。

で、青春SFとしてはわりとベタ。そこがまた素晴らしいんだけど。

子供の頃に不思議な経験をした二人を交互に描きながらやがて二人の運命が交錯していくタイプの物語で、アニメ映画『君の名は。』あたりを思い出す人も多そう。90年前に土浦で墜落した飛行船グラーフ・ツェッペリン号。その存在しないはずの飛行船を子供の頃に一緒に見た夏紀と登志夫。この夏紀と登志夫の日常を交互に描きながら物語は進行するのだけど、夏紀がパソコン部でフロッピーディスクを使ってWindowsをインストールするのに苦戦したりするのに対して、登志夫は光量子コンピュータの研究所でアルバイトをしていて、明らかに時代が違う。

秀逸なのは夏紀側の日常の見せ方で、フロッピーディスクを使ってWindowsをインストールするというレベルの気持ち悪い違和感の作り方がすげーのよ。いや、Windowsって95の時にはギリギリFD版もあったかもしれないけれど主流はCD-ROMになっていたはずで、こういう風に、記憶的に違和感があるのだけど調べないといまいち確証できないような、ちょっとした違和感が随所に仕込まれてるのよ。この気持ち悪さがわかるのって、90年代のパソコン、初期のインターネットを知ってる世代だけだと思うのだけど、土浦を舞台に選んだことといい、狭い、凄く狭いよ、ターゲットがっ!! で、その違和感を積み上げて見せてくる夏紀の世界が凄く上手い。

ただ、そんな秀逸な夏紀の日常なのだけど、後で早川書房の紹介を見たらはじめからネタバレが書いてあって、早川の担当は何を書いてるんだ? それを書いたら台無しだろ。

オーソドックスな青春SFとして仕立てている前半はほんとに素晴らしいのだけど、後半は幾分駆け足で強引なのが、ちょっと残念。いや、せつなく感動的な話ではあるんだけどね。だからこそ、凄くもったいないと思ってしまう。

うーん、この作品、元になった短編があってそれを長編に仕立て直した作品なのだけど、元になった短編を読むと、短編では違和感ない部分が、この長編の中では凄く無理やり感が強くなっちゃってるのよね。後半は短編のいい部分を活かすように流用部分が多いのだけど、そこは思い切って後半も全面的に書き直しで良かったんじゃないかなー。

[ グラーフ・ツェッペリン ]