町の本屋はいかにしてつぶれてきたか
書店の閉店は社会問題になっていて、最近も飯田一史の新書『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか』をきっかけに X で話題になっていたのだけど、誰もきっかけとなった新書を読んでない気がする……。
なので、買って読んでみました。この新書は、書店ビジネスについて時代ごとの変遷を描くという内容。書店の閉店が社会問題になっているにもかかわらず、書店の変遷を手軽に学べる本がなく、また、書店を巡る決まり文句の多くには誤りが多い、という問題意識から書かれているのね。
で、書店を巡る決まり文句の多くには誤りが多いってことは、以下のことを並べるだけでもよくわかる。
- 書店の大量倒産がはじまったのは、出版業界が最盛期を迎える1990年代より前、1980年代後半
- 1960年代後半の時点で、平均的な書店は赤字で、書籍以外を扱う兼業書店の割合が多い
- 欧米の書店業はネット時代になっても安定しており、日本のような大量閉店は発生していない
日本だと、書籍一冊あたりの書店の取り分が少なく、そこから人件費と輸送費をひくと、書籍の店頭販売は、基本的に赤字。それでも昭和の時代は、書店団体が力を持ち、既得権益を守り、またマージンの高い外商などの手段もあったので存続していたのね。それが、公取の介入で団体交渉ができなくなり、さらに規制緩和による大型書店の登場が追い討ちをかけ、と、これは生き残れませんわ。
結局、「書籍一冊あたりの書店の取り分が少ない」というのが、書店閉店の根本的な原因。欧米の書店は、値段の高いハードカバー中心でマージンも高いので、ビジネスとして成立するらしい。じゃあ、なんで日本の書店の取り分が低いのかというと、だいたい以下のような感じ、か。
- 売り場が値段の安い雑誌に依存してきたため、書店は雑誌以外も値段の手頃な書籍(文庫や漫画)を並べがち
- 出版社も安くても刷れば儲かるので、高いハードカバーでなく安い書籍を出版しがち
- 過去の公取の介入により、書店は取次や出版社と団体での価格交渉ができない
- 出版社も公取の介入により、価格に高いマージンが乗せられない
書店の利益率の話になると、再販売価格維持制度のせいにされることも多いけれど、書籍の値段って、結局、日本固有のビジネス上の問題と、出版社との力関係による部分が大きい。似たような制度を採用してる国では日本のように安いわけではなく、Amazonや大手書店のマージンは、中小書店にくらべて、きちんと高い。再販売価格維持制度をやめて書店が自由に価格をつけられるようにしても、中小書店が高い値段をつけるようになるとは思えないんだよな。Amazonや大手書店が割引するだけで、いま以上に客を取られるだけだよね。
Xの議論でもあった「取次がバカでまともに入荷しないせいでつぶれる」という点については、この新書でも問題として取り上げているものの、なんでこんなに酷いのかさっぱりわからない。取次にとっても返本率の改善は長年の経営課題で、1960年代にはコンピュータを使った配本システムの構築をはじめている。だが、60年間、ずっと改善する改善するといってるのに、ぜんぜん改善できてないのよ。一応、理由らしきものも書いてあって、確かに、半世紀前には難しかったかもしれないけれど、今できない理由がほんとわからない。Amazonはもちろん、いろんなネット書店や図書館流通センターも当たり前に構築してるシステムにすぎず、書店向けの取次だけが酷いシステムのままなのね。
取次についてもう一つ疑問なのは、「長年、出版社と価格交渉しているのに、要望が通ったことがほとんどない」という点。トーハンと日販の2社で独占しているのに、出版社の言い値の値段しかもらえていない。そのせいで、タイムリーに書店に発送もできないどころか、通常配送すら輸送費高騰でピンチになっている。これも、かつて公取から注意を受けたことが原因のように書かれているけど、なんか、書店も取次も出版社も公取から注意を受けていて、それが、書籍のマージンが少ない原因になってるんですけど……。
最近は政治問題化してるので、公取にも動きがあるとのことだけど、カルテルを結んで書籍の価格を上げることを許容するかと言うと、政治判断としてもむずかしいだろうな。経産省の振興策も、現状では、兼業などの成功事例を提示したにすぎず、効果があるようには思えない。取次がまともな配本システムを作れば輸送費や人件費の低減は狙えるけれど、60年できなかったことができるんだろうか。
結局、政府が補助金を出すか、地方自治体が直接経営しないと中小書店は持続できないと思うのだけど、そこに税金を投入するなら、個人的には、図書館に税金を入れるべきだと思う。
[ 2025.04.28 ]