あかほりさとるのライトノベルにおける立ち位置

『オタク成金』(→感想) を読むと、あかほりさとる が、まるで90年代ライトノベルの代表のように錯覚してしまうけれど、あかほりさとる は、ライトノベルの中ではかなり異質な存在だと思ってます。あかほり は、ライトノベルの本流にあたる『ロードス島戦記』や『スレイヤーズ』の影響をさほど受けてるようには見えず、また、あかほり の改行バリバリの独特な文体をあたかもライトノベルの特徴のように書かれているけど、それは、ライトノベルの特徴ではなく、少女小説の特徴だっ!!

あかほり が作家デビューした1989年は、オタク向けのアニメの放映本数が激減していた「アニメ冬の時代」。ライトノベルも 80年代中頃までは、アニメの影響を受け、ノベライズも盛んに行なわれてましたが、80年代後半になると、アニメに代わって TRPG や RPG の影響を強く受けるようになります。1988年に創刊された 角川スニーカー文庫や富士見ファンタジア文庫も、TRPG や RPG の台頭を受けたものです。あかほり がデビューした エニックス文庫にしても、代表作は『ドラゴンクエスト』のノベライズだったわけだし。

ここで、あかほり の素晴らしいところは、当時は、ほとんど見向きもされていなかったものの潜在的にはパイの大きいアニメに着目して、少女小説で開発された斬新な文体を取り入れて商品化したところにあると思っています。つまり、『オタク成金』でまさに主張してるみたいに、もともとのライトノベルよりも大きなファン層向けに、ライトノベルの旧来の方法よりも間口の広い手段を使って、きちんと計算の上で狙ってたように見えるのです。ただそれは、ライトノベルの“普通”ではありません。

少女小説は、少年向けのライトノベルに先んじて、1989年には、すでに空前の大ブームを迎えてました。あかほり は、150冊2,200万部を売り上げたとのことですが、ティーンズハートの花井愛子も負けてません。80年代後半のごく短期間で、200冊2,000万部を売り上げてます。少女小説の作家は、こぞって花井愛子の、会話中心で改行バリバリ、擬音擬態語を多用した文体を模倣し、それが女子中高生に大きく受けて、次々と新しいレーベルが刊行されて少女小説のバブル期に突入していったのが、ちょうど、あかほり がデビューする直前になります。

花井愛子がこの特徴的な文体を開発したのは、「10代の女の子が普段使っている共感しやすい言葉で、漫画のようにすらすら読めるように」ということ狙ったということみたいですが、あかほり は、まさに、この「漫画のようにすらすら読める」部分を狙って、花井愛子の文体を模倣し、狙い通りに大ヒットにいたることになります。

しかし、大ヒットを飛ばした あかほり も、『セイバー~』が終わると、ぱったり人気がなくなります。あかほり本人は、人気がなくなった理由を、“飽きられた”と分析してますが、特に、三年で読者が入れ替わるといわれてるライトノベルでは、“飽きられた”というのは、通常ありえません。一般的には、1995年の『エヴァンゲリオン』、1997年の『To Heart』で変化したオタク業界の流れについていけなかったという認識ではないでしょうか。当時、「あかほり はいなくなったのに、同系統の黒田洋介が未だ活躍してるのは何故だ?」という議論がよく行なわれてたことが思い出されます。また、人気のなくなった理由の一つの示唆として、少女小説のブームの終焉の状況が参考になるように思えたりします。

少女小説は、もともと、中高生をターゲットとして書かれてましたが、誰にでも読みやすい文体を生かす方向に進化しつづけ、やがて、小学生でもすらすら読めるような内容にシフトしていきます。しかし、小学生でも読める内容が、そのまま中高生が読みたい内容でありません。誰もが読みやすいことは、みんなが読みたいものとはイコールではないわけです。やがて、少女小説は、メインの読者が小学生ばかりになった頃、一気に売上が萎んで瓦解していきました。当時の少女小説で生き残っているのは、安易に読みやすい方向にシフトせずに、中高生向けを固持し続けたコバルト文庫とホワイトハートのみです。

[ 2009.05.14 ]

  このエントリーをはてなブックマークに追加