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KADOKAWA 電撃文庫
86―エイティシックス― /安里アサト

うわぁ、ゾクゾクと引き込まれるなぁ。……もの凄く危ういバランスのピーキーな設定で、その割りに、ストーリーの構成や設定の組み立て方は雑だと思うんだけど、でも、特に、シンの“死神”の異名の理由が語られてからは圧巻される。凄かった。

第23回電撃小説大賞《大賞》受賞作。有色人種だけが人権を奪われ戦場の最前線で死んでいく世界。安全な後方で部隊を指揮する白人のレーナは、いわくつきの古参兵を集めた精鋭部隊を任せられる……。と、第二次世界大戦下のナチスとユダヤを思わせるような差別と、人間を“プロセッサー”と呼び兵器のコンピュータの代わり扱うという発想の設定が凄まじい。いやぁ、『疾走れ、撃て!』のハッチフェイスを思い出させるような設定なんだけど、やっぱ、エゲツないわ。このエグい設定と、差別する側とされる側の人間ドラマが重く、面白いとかつまらないとか、出来不出来とか関係なく、胸に迫るものがある。いや、本当にすごい作品だった。

[ 2017.03.19 ]


KADOKAWA 電撃文庫
86―エイティシックス―Ep.2 ―ラン・スルー・ザ・バトルフロント―<上> /安里アサト

1巻のラストに至るまでの空白を描いたシリーズ第二弾。ユージンのエピソードをはじめ、相変わらず凄さを感じさせるのだけど、ただ、蛇足というには言い過ぎだとしても、もともと1巻で省略されていた部分だし、シンの扱いをはじめ、個人的には不満も多く、下巻次第かなぁん。まだまだ描かれてない部分も多いしなぁ。……どうせなら、滅びゆく共和国側をメインで描いてくれればよかったのに。

新キャラのフレデリカには期待だけど、どうにも今後の扱いがわからんな。物語としては、1巻から変わらず凄まじくて、下巻には期待したいところだけど。

[ 2017.07.16 ]


KADOKAWA 電撃文庫
86―エイティシックス―Ep.3 ―ラン・スルー・ザ・バトルフロント―<下> /安里アサト

……エッジがすべて丸まって、普通の戦争モノになってしまった。

とことんエゲツない地獄のような設定が魅力だと思っていたのだけど、アルゴリズムに支配され不気味だった敵は普通に意志ある人間のような描かれ方になってしまってるし、なんだか普通だ。そもそも全員死なないことがわかってる戦闘だし、激戦ではあるものの勝利が確定してる物語を描いてるだけになっちゃってるんだよなー。その勝利の過程が精神的にえぐるような内容だったならともかく、本当に激戦なだけだ。うーん、普通の戦争モノでしかない。

せめて、より困難に見えるレーナ側の物語を中心に描いてくれたならともかく、凄腕のパイロットが激戦を潜り抜けて目標を倒すってだけの話なんだよな。つまらなくはないのだけど、期待していたレベルものかというと、ぜんぜん足りてないよなー。

[ 2018.01.16 ]


KADOKAWA 電撃文庫
86―エイティシックス―Ep.4 ―アンダー・プレッシャー― /安里アサト

レギオンの設定は凄いな。ゾクゾクする。レギオンの拠点に積み上げられた死体の山とか……。

運命の再会を果たしたシンとレーナは旧共和国にあるレギオンの拠点の掃討へ、というのが今回のあらすじ。やっぱり、1巻で綺麗に完結してた物語なので、その後のストーリーのいまいち感が拭えないんだよなぁ。シンとレーナ以外はキャラもちょっと弱い。二巻ではヒロインだったはずのフレデリカとか空気になっちゃってるよっ!! ……物語はいまいちなのだけど、ただやっぱ、レギオンの設定がすげーな。脳を単なる生体部品として扱う発想の作品は他にもあったけれど、ここまで人体をパーツ扱いして描写してる作品はなかなかないよっ!! えぐいなぁ。

[ 2018.11.18 ]