異世界誕生
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講談社 講談社ラノベ文庫
異世界誕生2006 /伊藤ヒロ -
いやー、昨年話題になったときに読んどけばよかったなぁ。当時、作者がどんな発言していたのか、読者がどんな受け取り方をしてたのか、凄く気になるタイプの作品だ。2006年のネット描写もいろいろ気になるし、途中、「なにを思ってこんなん書いたんだ?」という尖がり方が凄い(笑)。とにかく母親をはじめとする登場人物の病み方が凄いよね。
物語は、2006年春、交通事故で息子を亡くした母親が、息子の書いた小説のプロットをみつけ、息子の代わりに息子を主人公とした異世界転生小説を書くというもの。
舞台を2006年に設定したのもおもしろいのだけど、2006年ぐらいだと、フロッピーディスクってまだ現役だったっけか? まだ、個人HPが中心の時代。異世界転生どころかファンタジー自体が下火で、Webからの書籍化もほとんどなかったんだよね。ラノベ史的には、『涼宮ハルヒの憂鬱』がアニメ化した年だからな。のちになろう系に影響を与えたとされる『ゼロの使い魔』のアニメ化も2006年か。あぁ、『ゼロ魔』よりも後だと設定的に成立させづらいので舞台は2006年になってるのか。2006年はWeb小説を題材にするには早すぎる気はするのだけど、一応、『電車男』が2004年なので無くはない。
“皆さんは、ご存じでしょうか? 実は、昨今流行の異世界転生ものライトノベルの多くは、我が子を交通事故などで失った母親の手で書かれているということを……”というコンセプトから始まった作品にしては、ほんと、凄く綺麗で、いろいろフックの多い作品に仕立ててきてるよな。伊藤ヒロらしいアイロニー的な小説なんだけど、技術的には凄くうまいと思う。……いや、途中の不穏な展開からすると、少し綺麗にまとめすぎだと思ったりもするけど。しかも、これで続編あるとかマジ!?
[ 2020.11.09 ]
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講談社 講談社ラノベ文庫
異世界誕生2007 /伊藤ヒロ -
異世界転生ブームのはじまりを描いた『異世界誕生2006』の続編。うーん、2007年っぽくなくて、説得力が弱い……。
いやー、作中で、ライトノベルがやたら低く見られる描写があるんだけど、2007年ぐらいだと、まだそこまで低く見られてなかったよね? ライトノベルが低く見られるようになったのって、『涼宮ハルヒの憂鬱』のヒットを受けて、ライトノベル原作のアニメ作品が粗製濫造された結果によるのが大きいんですよ。なので、『涼宮ハルヒの憂鬱』の放映の翌年である2007年で、ここまで低く見られるのは、まだちょっと早い。ライトノベル作家がデビューしやすいと思われるようになったのも、なろうの書籍化ラッシュがはじまる2010年代以降だよね。
2007年ぐらいだと、のちに直木賞をとる桜庭一樹が、まだライトノベル作家とみなされていて、野村美月の“文学少女”シリーズが注目されていた頃。文学的にもライトノベルはまだ評価されていて、売り上げ的にもライトノベルが出版界を救うと信じられてた時代。せっかく、2007年を舞台にしたにしては、この時代描写はちと微妙じゃないかなぁ。
作品としても、不治の病に侵された少女を持ってきたのはあざとく切なくて悪くはないけど、ただ、テーマ性もストーリーの面白さも『2006』に比べてボケすぎてて微妙だ。『2006』が綺麗にまとまっていただけに、無理に続編を書く必要はなかったんじゃね?
[ 2020.11.16 ]