夢の上
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中央公論新社 C★NOVELSファンタジア
夢の上1 翠輝晶・蒼輝晶 /多崎礼 -
最高傑作級。『<本の姫>は謳う』の多崎礼が贈る新作は、やはり綺麗なファンタジーでした。青空の見えない地形に象徴される重苦しい空気に包まれた王国を舞台に、それでも輝いて生きる人の夢を綴った連作短編。この1巻は、有力貴族の元に嫁いだ地方領主の娘・アイナの物語を綴った「翠輝晶」と、旅芸人として生まれやがて騎士として一人の貴族の娘に尽くすことになるアーディンを描いた「蒼輝晶」の二編。その二編とも、とても綺麗でせつない恋愛モノで、ほんと素晴らしいわ。
いや、「翠輝晶」の互いに思いやる夫婦愛も素晴らしいのだけど、特に、「蒼輝晶」は、イズガータとアーディンの身分違いの恋の物語がせつなすぎるっ!! 恋愛モノとしてはベタな悲哀なんだけど、それが、緻密に組み立てられた背景の元で、丁寧で見事な筆力で綴られていて、ほんと綺麗すぎるほど綺麗だよなぁん。二つの短編は、それぞれリンクしていて、おそらくシリーズ通して、この王国の未来が綴られることになるんだろうけど、その王国の行く末も気になるなぁ。続きも楽しみですっ!!
[ 2010.09.28 ]
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中央公論新社 C★NOVELSファンタジア
夢の上2 紅輝晶・黄輝晶 /多崎礼 -
最高傑作級。1巻同様、圧政をひくサマーア神聖教国での反乱を描いた物語をそれぞれ異なる人物の視点で描いた連作短編なんだけど、ほんと、せつなく綺麗で素晴らしいなぁ。今回は、復讐のため光神王に嫁ぎ、やがて救国軍の旗印となるアライス姫を産むことになるハウファを描いた「紅輝晶」と、ケナファ騎士団でアライス姫であるシアラを見守り、やがて恋に悩むことになるダカールを描いた「黄輝晶」の二編。特に、ハウファの最期が、ハウファといい、ツェドカといい、とにかくせつないなぁ。
いよいよ次回は全三巻の最終巻だけど、ラストはやっぱり、ツェドカとアライスなのかしらん? とにかく次も、楽しみ楽しみ。
[ 2011.02.03 ]
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中央公論新社 C★NOVELSファンタジア
夢の上3 光輝晶・闇輝晶 /多崎礼 -
民衆が虐げられている王国で、やがて反乱へ至る道程を、異なる六人の視点で綴った本作もいよいよ完結。ストーリー展開は全く同じなだけに、登場人物のせつない心情が際立つ、とにかく綺麗な物語でした。
そういうわけで最終巻は二人の王子、アライスとツェドカ視点。なんやかんやでアライス中心の物語なのに、ラストの〆がツェドカなのはどうしてだ?と思ったら、そういうことか。多くの人に支えられて生きてきたアライスと違い、絶望と無力感の中、誰にも理解されない孤独でひたむきな闘いの道を歩んできたツェドカの想いが切なすぎるね。そのラストシーンは、まさに救済を、夜明けを感じさせる綺麗な情景。そして、視点を変えただけでストーリーは同じなのに、読者に提示する情報をコントロールして、最後まで興味を惹きつけつつ読ませる構成は、さすがとしか言いようがない。見事に計算された構成で魅せる綺麗で切ない物語は、ほんと素晴らしかったです。
[ 2011.06.04 ]
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中央公論新社 C★NOVELSファンタジア
夢の上 サウガ城の六騎将 /多崎礼 -
タイトル通り、『夢の上』でアライスを支えたケナファ騎士団の士隊長六人を主人公にして、一人づつ描いた六編の短編集。出自を問わないケナファ騎士団だけあって、故郷を捨てざるを得なかった身の上を語る話が多くて切ない。比較的淡々とした筆致で描かれているのだけど、その抑えた筆致がなおさら切なさを演出していて、いっそう心に沁み入る~。さらに、そういう社会だとはいえ、10代前半で悲痛な決意を抱かなければいけない話ばかりなのが、ほんとに残酷で心が痛いわ。
その六編の中で、特に印象的だったのは、「世界で一番速い馬」と「あの日溜まりの中にいる」。「世界で一番速い馬」は、シャロームの想いと裏腹に、時代の価値観に束縛され続けた姉シャルカの哀しい結末が、マジ切ない。「あの日溜まりの中にいる」は、姉ちゃん、ツンデレすぎる(笑)。家族を想う、暖かく優しい内容が Good。そして、最期を飾る「手紙」。正直、国を追われる展開とか、納得いかない部分もあるのだけど、本編のその後をも感じさせるラストに相応しい内容で、ほんといいエンディングでした。
[ 2012.05.07 ]