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彩流社
コバルト文庫で辿る少女小説変遷史 /嵯峨景子

タイトルには“コバルト文庫”とあるけれど、もちろんコバルト文庫だけでなく、少女小説史50年をエビデンスを踏まえつつ纏めた良書。1966年に刊行された『小説ジュニア』から現在のウェブ小説、ライト文芸に至るまでの少女小説の変遷については、これ一冊で押えることができる。少年向けライトノベルとも陰に陽に関連しており、ライトノベルを語るうえで必読な一冊。

それにしても、今の少女小説って、ここまで危機的状況に陥っていたのか。中高生にはすでに読まれなくなって久しく、つまり新規読者の流入は止まっていて、かつて読者だった社会人女性がそのまま読み続けているだけという状況。雑誌『Cobalt』の休刊も大きなニュースだったけれど、コバルト文庫の発行点数も、2005年には年間180冊近く出していたのが、2015年には40冊程度と、落ち込みが酷いんだよね。雑誌休刊、新人賞募集中止、レーベル規模の縮小、リニューアル、路線変更等も相次いでいる。

帯で、新井素子が「とても面白かった」とコメントを寄せてるのだけど、いやいや、少女小説が存続の危機にあることを示す内容なのに、「面白かった」というのはどういうことだ?

以下、メモ代わりに簡単に。

  • 1966年『小説ジュニア』創刊
    それまでのロマンチックな少女小説に対抗する形で生まれ、リアルな青春、性と愛、文学志向という辺りが特徴。文学の入り口として機能する一方、ポルノ的に消化されることも
  • 1970年後半、若手少女小説家たちの登場
    1977年氷室冴子、正木ノン、新井素子、1978年久美沙織、1979年田中雅美と若手作家が相次いでデビュー。彼女らの登場により少女向けの小説は、おじさんが書く文学の入門書から、同世代の作家が書くエンターテイメント小説として生まれ変わる。また、この変化は作家側編集側も自覚しており、この時から意図的戦略的に“少女小説”を名乗るようになる
  • 1987年、ティーンズハート創刊
    コバルトと双璧をなすティーンズハートが創刊。コバルトが文学少女向けだったのに対し、ティーンズハートは読書初心者向け。ティーンズハートが少女小説の読者層の拡大に貢献し、80年代後半に少女小説を一大ブームに導く
  • 1990年代、ファンタジーとBLの時代
    少女小説の大ブーム、学園ラブコメ全盛期に、前田珠子、若木未生、桑原水菜がデビュー。ティーンズハートが失速していく中、ファンタジーやBLなど少女小説の幅を拡張することで新たな読者を獲得し、1990年代を牽引していく
  • 2000年代、少女小説の地位低下と女性主人公への回帰
    少女小説はかつて中高生女子の読み物として大きな地位を占めていたが、1990年代中頃から中高生女子の読む本が多様化。2000年代になると、少年向けライトノベルとケータイ小説にとって代わられるようになる。結果、幅広い内容を受け入れていた少女小説は、より少女小説らしい内容に純化。特に、少年主人公と学園モノは消えていくことに
  • そして、現在。姫嫁とティーンズラブ
    少女小説の純化は読者層の高年齢化、固定化を伴いながらさらに進み、今の「姫嫁」作品ばかりの状況に至る。「姫嫁」作品とは、主人公の属性が「姫」や「嫁」で、相手からひたすら溺愛される内容のもの。さらに最近では主人公の属性に「オタク」や「ひきこもり」が加わり、ストレスなくヒロイン気分が堪能できるのがポイントになっている。ティーンズラブも一大勢力となっているが、これも「姫嫁」作品と基本は同じで、性的要素が含まれる点が異なる。しかし、この「姫嫁」作品も2013年頃には飽和し、少女小説は似たような作品ばかりになり人気も低迷、生き詰まりを見せている
  • その他、最近の状況
    ボカロ小説はビーンズ文庫中心に売り上げに貢献/ウェブ小説は拡大傾向だが少年向けほどのムーブメントにはなってない/ケータイ小説は多様化しながら今も一ジャンルを築いている/ライト文芸は硬直化した少女小説に新風を吹き込むと期待されるが少女小説の市場を大きく奪っているのと少女小説同様にすでに画一化がみられるのが懸念

[ 2017.01.08 ]