好きなら、言っちゃえ!! 告白しちゃえ!! - 2024年6月


2024 6 10

東京創元社 創元推理文庫
冬期限定ボンボンショコラ事件 /米澤穂信

小佐内さん可愛いぃぃぃぃぃっっっ!! いや、ほんと可愛いよ小佐内さん。いやー、こんな可愛い

「ゆるさないから」

とか、マジ見たことないよ。さいこぉーーーーーっっっ!!

それにしても、小市民シリーズの新刊って、何年ぶりだ? 2020年に短編をまとめた『巴里マカロンの謎』が出たけれど、『秋期限定栗きんとん事件』から数えると、15年ぶりか。『春期限定いちごタルト事件』からはじまった小佐内さんと小鳩くんの小市民シリーズも『夏』『秋』と続いていよいよ『冬』。四部作のラストとなる『冬』で、シリーズ完結っぽい内容なのだけど、これでシリーズ完結なのかしらん?

いやー、ほとんど出番はなかったにも関わらず、とにかく小佐内さんの魅力がたまらない。ほんと可愛い可愛い。今回の『冬』はいきなりひき逃げに会い小鳩くんが入院するところから始まるのだけど、そんな小鳩くんのお見舞いにくる小佐内さんのメッセージがいちいち可愛い。そして、そのメッセージやお土産の意味が、そうだよ、小佐内さんはそういうキャラだったっ!! マジたまらないなぁ。

もちろん小佐内さんが可愛いだけの作品ではなく、ベッドから動けない小鳩くんを主人公に、三年前のひき逃げ事件と交互に進行させる物語の構成が、これがまた素晴らしい。ところどころ不自然さを匂わせてはいたけれど、真相に迫るラストの展開が見事だよね。米澤穂信の青春ミステリ特有の残酷さも健在で、また素晴らしい。

まあ、何より素晴らしいのは小佐内さんで、『秋』には"短い間"と言ってたと思うのだけど、何あのラスト? ほんと可愛いっっっ!!!

[ 小市民シリーズ ]


2024 6 16

好きな作品を挙げながらライトノベルの歴史を振り返ろうという試みです。ライトノベルを読み始めたのは、男性向けだと『キマイラ吼』、女性向けだと『なぎさボーイ』からなので、そこら辺から振り返っていきますね。だいたい40年ぐらいのライトノベル史をカバーしていると思います。

1982年 キマイラ吼 /夢枕獏 /ソノラマ文庫

ソノラマ文庫は1975年創刊。創刊しばらくは、『宇宙戦艦ヤマト』と『機動戦士ガンダム』のノベライズ、あとは『クラッシャージョウ』(1977年) ぐらいしかヒット作がなかったのだけど、1980年代に夢枕獏と菊地秀行を得て、ようやく安定した人気を獲得する。ただ、夢枕獏と菊地秀行に続く作家が『ARIEL』(1987年) の笹本祐一ぐらいしかいなくて、1990年以降、失速することになるのだけど。

いやまあ、1990年代のソノラマでも、庄司卓の『倒凶十将伝』(1995年) とか神野オキナの『南国戦隊シュレイオー』(2000年) は好きだったし、岩本隆雄の『星虫』(1990年) もソノラマ版で読んだのだけど、やっぱりソノラマ文庫といえば、夢枕獏と菊地秀行の伝奇バイオレンス、エロスとバイオレンスの印象が強すぎるんだよなぁ。

で、この二人の作品で特に好きだったのが夢枕獏の『キマイラ吼』(1982年)、菊地秀行だと「エイリアンシリーズ」(1983年)かな。『キマイラ吼』、スタートして40年以上たっているのに、まだ終わってない……。

1984年 なぎさボーイ・多恵子ガール /氷室冴子 /コバルト文庫

コバルト文庫は集英社文庫コバルトシリーズとして1976年刊行。創刊当時はジュニア小説系のベテラン作家中心だったのだけど、そのうち、まだ学生だった氷室冴子や新井素子、久美沙織が続々とヒットを飛ばすようになり編集部も方針を転換、若手作家中心の布陣にして1980年代を迎えるという感じ。

1980年代のコバルトは、自分の周り(男性)だと「新井素子しか読んでない」という感じだったのだけど、私はむしろ新井素子はあまり読んでなくて、氷室冴子の『なぎさボーイ』『多恵子ガール』が好きでした。あとは、久美沙織の『丘の家のミッキー』か。ただ、『丘ミキ』を読んだのは、2000年代の新装版なんだよなー。

1988年 聖エルザクルセイダーズ /松枝蔵人 /角川文庫

角川は1980年代中頃から若者向け小説の市場に参入。藤川桂介の『宇宙皇子』(1984年) や田中芳樹の『アルスラーン戦記』(1986年)、火浦功の『未来放浪ガルディーン』(1986年)辺りのことね。ここら辺りのファンタジー小説が当たったことで、角川文庫の青帯、のちのスニーカー文庫や富士見ファンタジア文庫に繋がっていく。

角川文庫の青帯時代の代表作といえば、『ロードス島戦記』(1988年)、『聖エルザクルセイダーズ』(1988年)、『魔獣戦士ルナヴァルガー』(1988年)辺りだと思うのだけど、個人的に好きだったのは、『聖エルザクルセイダーズ』『魔獣戦士ルナヴァルガー』。『ロードス島戦記』も読んでたと思うのだけど、ぜんぜん印象に残ってないんだよなー。

1989年 ハイスクールオーラバスター /若木未生 /コバルト文庫

1980年代のコバルト文庫は新井素子を除くと女性向けの色彩が強かったのだけど、それを大きく変えたのが若木未生と前田珠子。コバルト文庫にファンタジーを導入して、男性にも広く読まれるようになる。その結果、コバルト文庫、スニーカー文庫、富士見ファンタジア文庫は一つのジャンルとみなされるようになって、ここら辺のジャンルを「ライトノベル」と呼ぶようになるわけ。

若木未生の作品で好きなのは、なんと言っても『ハイスクールオーラバスター』(1989年)、あとは『グラスハート』(1993年)。『ハイスクールオーラバスター』は2021年に完結したのだけど、2024年になってコミカライズ、『グラスハート』もドラマ化みたいな話があって、なんか時間感覚がバグるよな。

1991年 ユミナ戦記 /吉岡平 /富士見ファンタジア文庫

富士見ファンタジア文庫は1988年創刊。創刊してすぐに、吉岡平の『無責任艦長タイラー』(1989年)、神坂一の『スレイヤーズ』(1990年)、新城十馬の『蓬莱学園』(1981年)、庄司卓の『ダンシィング・ウィズ・ザ・デビルス』(1992年)、冴木忍の『〈卵王子〉カイルロッドの苦難』(1992年)、秋田禎信の『魔術士オーフェンはぐれ旅』(1994年) と人気作を揃えて、1990年代の覇権を握ることになる。

で、吉岡平といえば『無責任艦長タイラー』が有名だけど、個人的には『ユミナ戦記』(1991年) が最推し。異世界転移の傑作だと思う。

1992年 あたしのこと好きだよね? /小泉まりえ /ティーンズハート

1987年に創刊されたティーンズハートの代表作といえば、花井愛子か折原みとの作品を挙げる人が多いと思うのだけど、個人的最推しは小泉まりえ。ティーンズハートは1980年代後半にはその絶大な人気からコバルト文庫と覇権を争っていたのだけど、小泉まりえが活躍した1990年代には過当競争から粗製濫造が目立つようになり、世間的評価がちょっと低く見られがちなんだよね。

で、あんなに売れていたティーンズハートを含む少女小説だけど、1990年代後半には市場全体が崩壊し絶滅に至ることに……。

1996年 星くず英雄伝 /新木伸 /電撃文庫

電撃文庫は角川お家騒動の結果生まれたレーベルで1993年創刊。その生まれの経緯から、スニーカー文庫に対抗し無理にでも作品数を揃える必要があって、当時の流行りからちょっとはみ出た作品も刊行してたのね。そうして出てきたのが、高畑京一郎の『タイムリープ』(1995年)、古橋秀之の『ブラックロッド』(1996年)、上遠野浩平の『ブギーポップ』(1998年) で、特に『ブギーポップ』は、読者の年齢層を押し上げ、異世界ファンタジーから現代異能バトルへ流行の変化を促すなど、ライトノベル全体に大きな影響を与えていくことになる。

で、電撃文庫の初期のラインナップの中で特に好きだったのが、新木伸の『星くず英雄伝』(1996年)。『星くず英雄伝』はあかほりさとるに代表される少年漫画的なラブコメではなく、美少女ゲーム的な萌え的要素を含む最初期の作品として優れていたと思う。まあ、あかほりさとるの作品も『MAZE☆爆熱時空』(1993年)はすげー好きでした。小説というよりアニメ版のCV.丹下桜にかなり補正されてる気もするけど。

あと、1990年代の中頃までは、『無責任艦長タイラー』(1989年) から『ヤマモト・ヨーコ』(1993年)、『クレギオン』(1992年)、『ロケットガール』(1995年)、『星界の紋章』(1996年)、『星くず英雄伝』(1996年)と宇宙を舞台にしたSFの流れがあったのだけど、1990年代後半からはほとんどなくなっちゃった気がする。……えっ、『スターシップオペレーターズ』? 『でたまか』? うーん。

1999年 月と貴女に花束を /志村一矢 /電撃文庫

で、この現代を舞台にする作品が増えた頃に好きだったのが、志村一矢の『月と貴女に花束を』。王道展開が素晴らしい。

異世界ファンタジーから現代異能バトルに流行りが移ったのは、『ブギーポップ』(1998年)の影響が大きいのだけど、ほんとめちゃくちゃ増えた。2000年前後で好きな作品を並べていくと、だいたい、現代が舞台になってるんだよな。例えば、『フルメタルパニック!』(1998年)、『月と貴女に花束を』(1999年)、『ダブルブリッド』(2000年)、『DADDYFACE』(2000年)、『R.O.D』(2000年)、『BLOODLINK』(2001年)、『天国に涙はいらない』(2001年)、『悪魔のミカタ』(2002年)、『9S』(2003年) とか。いろいろ抜けてる気がするけど。

で、この現代異能バトルの流れが、『灼眼のシャナ』(2002年)を経て、『とある魔術の禁書目録』(2004年)、『紅』(2005年)、「物語シリーズ」(2006年)に繋がっていくのんな。

1999年 流血女神伝 /須賀しのぶ /コバルト文庫

コバルト文庫は1990年代後半の少女小説の崩壊に巻き込まれることなく生き残り、2000年代になると老若男女に広く読まれるレーベルに進化するのんね。その代表作が『マリア様がみてる』(1998年) と『流血女神伝』(1999年)。『マリア様がみてる』は伝統的な少女小説への回帰を目指した作品だけど、『流血女神伝』は積極的に攻めた内容のファンタジー小説で、ここは『流血女神伝』を推したい。

……しかし、コバルト文庫は2000年代中頃に、何故か純粋な少女向けに方向転換し、そして、あっという間に消えて無くなるんだよなぁ。後継レーベルとしてオレンジ文庫があるけど。

2000年 DADDYFACE /伊達将範 /電撃文庫

1990年代から2000年代前半ぐらいまではオタク文化の最先端は美少女ゲームだったのだけど、ようやくライトノベルに美少女ゲームの影響がではじめるのが2000年前後。当時のライトノベルは、美少女ゲームに比べて、数年レベルで遅れたジャンルだった。とくに萌え、つまり、ヒロインをいかに魅力的に描くかという点で、1990年代までのライトノベルは全然ダメだったと思うんですよ。

で、この美少女ゲームの影響があって、『イリヤの空、UFOの夏』(2001年) や『涼宮ハルヒ』(2003年) みたいな人気作が出てくることになるし、その後、一時期のMF文庫Jのように萌え特化なレーベルに繋がっていくことになるのんね。

で、伊達将範は『ROOMMATE 井上涼子』や『To Heart』のノベライズで名を馳せ、『DADDYFACE』ではわずか9歳差の実の父娘ということで話題になる。現代を舞台とした伝奇バトルものとしても優秀で、間違いなく傑作だよね。何故、続編が出ない……。

2001年 なばかり少年探偵団 /雑破業 /富士見ミステリー文庫

2000年代のはじめに、角川と富士見がいきなりミステリに手を出す。この頃は、すでに異世界ファンタジーは完全に落ち目になっていたし、その後のライト文芸の成功を見ていると、そこまで筋が悪い選択ではなかったと思うのだけど、商業的には失敗。一般には、米澤穂信の「古典部シリーズ」(2001年)と桜庭一樹の『GOSICK』(2003年) を世に出したのが最大の功績、みたいに言われてる気がする。

でも、スニーカーミステリ倶楽部や富士見ミステリー文庫以降も、野村美月の「文学少女シリーズ」(2006年) や杉井光の『神様のメモ帳』(2007年) があるし、そして、三上延の『ビブリア古書堂の事件手帖』(2011年)を経由して、ライト文芸に引き継がれていると言えないかな? 言えないか……。

で、この頃出たミステリ作品では、『なばかり少年探偵団』(2001年) が傑作だと思う。

2003年 ROOM NO.1301 /新井輝 /富士見ミステリー文庫

結局、富士見ミステリー文庫は、ミステリ路線をやめて恋愛路線に方針を変えるのだけど、『ROOM NO.1301』は恋愛路線に転換してからの傑作。

ライトノベルの主流はすでに現代異能バトルに変わっていたのだけど、富士見ミステリー文庫の「LOVE寄せ」辺りから、バトルやファンタジー、SF要素がほとんど入っていない作品も増えてくる。橋本紡の『半分の月がのぼる空』(2003年) とか竹宮ゆゆこの『とらドラ!』(2006年) とか風見周の『女帝・龍凰院麟音の初恋』(2008年)とかね。たぶん、美少女ゲームの影響なんかも、かなり大きい。

で、ここら辺の恋愛モノの流れが、平坂読の『僕は友達が少ない』(2009年)、さがら総の『変態王子と笑わない猫。』(2010年)、渡航の『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』(2011年) とかに繋がっていくと思うのだけど、これらの作品が『ROOM NO.1301』の影響で登場したというと、ちょっと違和感あるな。

2003年 彩雲国物語 /雪乃紗衣 /角川ビーンズ文庫

少女小説は1990年代後半に絶滅したのだけど、角川ビーンズ文庫が2001年に創刊。ここから女性向けのライトノベルレーベルが増えていく。ただ、新創刊された女性向けのレーベルにはかつての少女小説らしさは全く継承されていないんですよね。あくまで女性向けのライトノベル。あとはBL要素が少々。

で、女性向けで人気を集めたのは、まずは喬林知の「まるマシリーズ」(2000年)。そして、『彩雲国物語』(2003年)。『彩雲国物語』は広く人気を集め、その後、女性向けで中華風ファンタジーが増えたのはのは、多分、『彩雲国物語』のせい。

そういえば、高野和の『七姫物語』も2003年だけど、これは中華ファンタジーというより和風ファンタジーなのかしら? 『七姫物語』も傑作だけどその後に影響を与えた印象はあんまないな。

2007年 鉄球姫エミリー /八薙玉造 /スーパーダッシュ文庫

1990年代後半から異世界ファンタジーは減っていたのだけど、2000年代中頃から再び増えてくる。やっぱり、ヤマグチノボルの『ゼロの使い魔』(2004年)の影響が大きいよなぁ。あとは、『狼と香辛料』(2006年) か。自分の好きな作品でも、『黄昏色の詠使い』(2007年) とか『鉄球姫エミリー』(2007年) とか『翼の帰る処』(2008年) とか『とある飛空士への追憶』(2008年)とか。『ノーゲーム・ノーライフ』や『六花の勇者』『天鏡のアルデラミン』は2012年なので、ちょっと先だな。『鉄球姫エミリー』は豪快さと容赦のない結末が好きでした。

で、2000年代後半のファンタジーの復活が、2010年代になるとそのままなろう系に繋がっていくんだよな。

2015年 本好きの下剋上 /香月美夜 /TOブックス

2010年代になるとWeb発の小説が注目を集めるようになる。いわゆるなろう系ね。『ソードアート・オンライン』(2009年) が出版された頃は、まだ、Web発という注目のされ方はあまりなかったと思うのだけど、『魔法科高校の劣等生』(2011年)や『ログ・ホライズン』(2011年)あたりから、「あのWebの人気作が今度書籍化するらしいよ」みたいな言われ方をするようになった気がします。

で、『魔法科高校の劣等生』が話題になってから、その後、『オーバーロード』(2012年)や『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』(2013年)、『この素晴らしい世界に祝福を!』(2013年)、『Re:ゼロから始める異世界生活』(2014年)の書籍化とアニメ化を経て、ライトノベルのメインストリームになっていった印象。

なろう系というと、やはり、異世界転生/転移だと思うのだけど、『転生したらスライムだった件』(2014年)とか『蜘蛛ですが、なにか?』(2015年)とか『異世界はスマートフォンとともに。』(2015年)とかの印象が強いのかなぁ。『幼女戦記』(2013年)もあるか。『ゲート』(2010年)、これは、異世界転移とはちょっと違うか?

テキトーに思いついた作品を並べてだけでも、いくらでもなろう系の名作が出てくるのだけど、2010年代前半のなろう系の充実ぶりって、改めて凄いな。

と、いろいろ作品名は挙げたけど、2015年ぐらいまでに出版されたなろう系の作品では、『本好きの下剋上』がダントツに好きで、これは、Web版、書籍版を繰り返し読み返したりしてる。

2018年 ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで /篠崎芳 /オーバーラップ文庫

そんな感じで2010年代以降は、ほぼほぼなろう系の作品で埋まってしまう。なろう系にも、異世界転移/転生から、追放、異世界恋愛、ゲーム世界転生にネット配信と、いろいろと流行り廃りがあるけれど、最後に、最近の作品で好きなものを並べておきます。

  • 『ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで』(2018年)
  • 『神統記』(2018年)
  • 『信者ゼロの女神サマと始める異世界攻略』(2019年)
  • 『サイレント・ウィッチ』(2021年)
  • 『玉葱とクラリオン』(2023年)
  • 『ダンジョン学園の底辺に転生したけど、なぜか俺には攻略本がある』(2023年)

『ダンジョン学園の底辺に転生したけど、なぜか俺には攻略本がある』は、Webの連載がエタってしまった気がする、続かないのかなぁ。『神統記』も、Web版の更新がほとんど止まってしまってるのが残念。アニメ化決まってるハズなんだけど。

[ 名作で振り返るライトノベル40年史 ]


2024 6 23

「ライトノベルに少女小説は含まれないのか?」という議論を見かけたのですが、ここでいう「少女小説」がちょっと気になりました。

「少女小説」は、"少女向けの小説"と理解されていると思うのですが、"少女向けの小説"は2000年代ぐらいから「少女向けライトノベル」と呼称されることが多く、若い読者には「少女小説」という呼称が通用しないなんて話も耳にします。「少女小説」を今風に「少女向けライトノベル」と言い換えると「ライトノベルに少女向けライトノベルは含まれないのか?」という話になってしまって命題として成立しません。

まあ、「少女小説」という呼称が用いられたのは主に戦前と1980年代〜1990年代なので、ここでいう「少女小説」はその1980年代〜1990年代のイメージ、つまり、氷室冴子や久美沙織が活躍した時代のコバルト文庫や花井愛子や折原みとに代表されるティーンズハートのイメージだと思うのですが、100年を超える少女向け小説の歴史の中でたかだか20年程度のイメージを切り取って語るのもちょっと乱暴すぎると思うのですよ。

そこで、軽く少女向け小説の歴史を纏めてみました。こうみると、伝統を積み重ねてるわけではなく、スクラップ&ビルドを繰り返してきた歴史なんだな。

「少女小説」の誕生

初の「少女小説」は、1895年に発表された若松賤子『着物のなる木』ということになってるみたいですが、戦前の代表作と言われるのが1916年に連載がスタートした吉屋信子の『花物語』。女学生の友愛を描いた連作短編で百合小説の元祖ですね。戦前の作品でもう一つ有名な川端康成の『乙女の港』は1937年か。『乙女の港』もミッションスクールを舞台にした百合小説で、戦前はだいたい百合小説が流行ってます。それにしても、1937年か。太平洋戦争の開戦までそんなに時間ないぞ。

当時の時代背景も軽く触れると、「高等女学校令」で女子向けに今の中学校・高校にあたる高等女学校が解禁されたのが1899年。大正デモクラシーが1910年代〜1920年代。満州事変が1931年で、太平洋戦争は開戦が1941年で終戦が1945年。女学生が生まれたのとほぼ同時に少女小説が生まれ、最初は教訓的な話が多かったのが大正デモクラシーの自由な空気の中で百合小説が生まれて太平洋戦争の直前まで続く、という感じね。

「ジュニア小説」の誕生

「少女小説」は太平洋戦争を生き延びるんですが、戦後、1950年代には滅びます。

滅んだ原因として挙げられるのは、1947年の教育基本法の公布に伴う学校の共学化。共学化の広がりによって、当時の少女の関心は男女の恋愛に向かい、百合小説はだんだんと人気を落としていくんですね。

そして、「少女小説」亡き後に登場したのが「ジュニア小説」。当時の少女の興味に合わせて男女の恋愛がメインです。1950年代後半あたりから登場し、1960年代中頃に『小説ジュニア』や『ジュニア文芸』といった雑誌が創刊されてジャンルとして確立したとされてます。「ジュニア小説」の代表作としてよく聞くのが富島健夫の『おさな妻』で、1969年に『ジュニア文芸』に掲載され、翌1970年に実写映画化。女子高生が人妻になる物語でAmazonプライムで映画版が見れるのだけど、エロティックのラベルがついているんだよなー。

で、「ジュニア小説」も、1970年代になると急速に廃れていくんですね。

原因として挙げられる一つは、性描写が過激化して社会的にバッシングを受けたこと、もう一つは、漫画ブームの影響です。1970年代というと「花の24年組」と呼ばれる竹宮惠子とかの少女漫画家が活躍した時代ですね。仕方ない。

1980年代 コバルト文庫と「少女小説」の再登場

1976年になると、いよいよコバルト文庫が創刊。で、「ジュニア小説」にトドメを刺したのが、コバルト文庫からデビューした氷室冴子です。

コバルト文庫の創刊の経緯を書くと、もともと雑誌『小説ジュニア』の単行本レーベルとしてコバルトブックスがあったんですね。で、1970年代の文庫レーベルの創刊ブームに乗っかって、集英社もコバルトブックスをコバルト文庫(集英社文庫コバルトシリーズ)に衣替えしたものです。ただ、コバルト文庫創刊時にはすでに落ち目で過去の名作を出して延命してる状況でした。ていうか、コバルト文庫から、さっきの『おさな妻』も出てるやん。

こういう状況のコバルト文庫でデビューしたのが氷室冴子。デビューは1977年だけど有名になったのは1980年の『クララ白書』かなぁ。落ちぶれていた『小説ジュニア』に大型新人の登場で、編集部も若手作家メインに売り出すことに決定します。

ここで氷室冴子は自分の作品を「ジュニア小説とは違う」という意識を持っていて、死語になっていた「少女小説」という呼称を復活させたんですね。編集部も雑誌『小説ジュニア』を『Cobalt』にリニューアル。「ジュニア小説」を過去のものにして、ブランドイメージの刷新を進めていきます。

氷室冴子が「少女小説」を広めたとすると、「少女小説」のイメージを作り上げたのが花井愛子です。花井愛子は1987年に創刊されたティーンズハートで活躍していくのですが、徹底したブランド戦略で「少女小説」のイメージ作りをしていきます。氷室冴子は戦前の「少女小説」を意識していたと思うのですが、花井愛子がイメージしたのは少女漫画のような小説で、戦前の「少女小説」とはまったくの別物になっていくんですね。

1990年代 コバルト文庫のファンタジー路線への転換

新しい「少女小説」は恋愛メインだったのですが、大きな変化が起きたのは1990年前後。ファンタジーブームの中、角川スニーカー文庫や富士見ファンタジア文庫が創刊されるのですが、これに、コバルト文庫とティーンズハートも乗っかります。コバルト文庫は、前田珠子の『破妖の剣』、若木未生の『ハイスクールオラバスター』、桑原水菜の『炎の蜃気楼』とファンタジー小説メインに路線変更、ティーンズハートもホワイトハートという新ブランドを立ち上げ、小野不由美の『十二国記』を刊行していきます。

で、一方、恋愛メインの「少女小説」は消えてなくなります。

コバルト文庫は本体とは別にコバルトピンキーというサブブランドを立ち上げていたのですが、コバルトピンキーは1998年に廃刊。ティーンズハートも1996年にリニューアルしてテコ入れを計るも低迷。これは、粗製濫造による自滅とか、ケータイ電話に可処分時間を奪われたとか、女子も電撃文庫を読むようになったとか言われるんですが、消えたのは恋愛小説の系統だけで、ファンタジーやBLは生き残るんですけどね。

2000年代 ライトノベルの時代

ファンタジーに路線変更したコバルト文庫は、角川スニーカー文庫や富士見ファンタジア文庫、電撃文庫とともに一つのジャンルとみなされていたんですが、にもかかわらずこれといったジャンル名がなかったんですね。そこで、パソコン通信のNIFTY-Serveで使われていた「ライトノベル」という言葉が、まずは読者の間で使われるようになります。

それがやがてマスコミでも取り上げられるようになるのですが、この時、かつて「少女小説」と言われていた作品も「ライトノベル」として紹介されるようになります。さらに、新創刊される少女向けのレーベルも「ライトノベル」を名乗るようになるんですね。こうして「少女小説」は再び使われなくなっていきます。

まあ、2000年代の少女向けの小説はファンタジー色が強く、恋愛小説のイメージが強い「少女小説」は使わないよなぁ。あと、この頃は「ライトノベル」のブランドイメージが強かったので、とりあえず「ライトノベル」を名乗ってれば売れる、みたいなのもあったと思います。

そして、現在

ところが、2010年代になると「ライトノベル」も使われなくなります。

代わりに使われるようになるのは「ライト文芸」とか「キャラ文芸」ですね。例えば、「少女小説」時代から唯一生き残っていたコバルト文庫は、2015年に実質的な後継レーベルのオレンジ文庫を創刊するのですが、このオレンジ文庫は「ライト文芸」を名乗っています。「ライトノベル」を名乗らなくなるのは男性向けのレーベルも一緒で、たぶん、2010年代後半からのアニメ化ラッシュのせいで「ライトノベル」のブランドイメージが悪くなったからだよなー。

また一方では、男女でレーベルを分けないところや、分けてもレーベル名の後ろに"F"をつけるだけのところも増えています。あまり男女向けを意識してない気がします。いやぁ、なろう系の時代になると「少女向け」のアピールをしても、あんま意味ないんでしょうね。

まあ、そもそも「少女」自体が今の読者にはいない気がします。2000年代から読者の高年齢化が言われ続けてますからね。

[ 少女小説の100年史、ライトノベルとの関係 ]