『薄氷あられ』と『アニメアライブ』とアニメ制作

『薄氷あられ、今日からアニメ部はじめました。』(→感想)、『アニメアライブ』(→感想)と自主制作アニメーションを題材としたライトノベルが相次いで出版されています。私も、一応、自主制作アニメを作ってたこともあるので、昔を思い出しながら、自主制作アニメのことを少し書いてみます。まあ、私がやっていたのは、8mmフィルムの時代なので、今ではかなり変わってしまった部分もあるかとは思いますが。

基本的なところ

まずは、基本的なところから。アニメを作るには、1秒作るのに 8枚以上絵を描く必要があって、自主制作アニメでは、10分ぐらいの長さが限界です。

アニメに限らず、一般的な動画は、1秒が24コマ、つまり、1秒間に24枚の絵を順々に写すことで、動いているように見せています。ただ、『薄氷あられ』『アニメアライブ』双方とも書いてるとおり、1枚の絵を3コマづつ撮影して、8枚/秒に減らしても、ちゃんと動いているように見えます。これが、4コマ撮りで6枚/秒になると、カクカクでぜんぜん動いてるように見えないのが不思議。

『薄氷あられ』で作ったアニメは3分、『アニメアライブ』だと7分。商用アニメと比べるとかなり短いですが、これが自主制作アニメの一般的な長さです。先のとおり8枚/秒なので、1分で480枚、3分で1,440枚、10分で4,800枚。まあ、止め絵とかシーンを使いまわしたりとかするので、実際の作画枚数はもっと減りますが、うちのサークルでは、10分ぐらいが限界と言ってました。単純に描かなきゃいけない絵の枚数だけでなく、ぶっちゃけ、10分超えてくると、作るのも観るのも飽きてきて、マジに苦行なんですよ。

で、アニメ制作は、脚本→絵コンテ→原画→動画→トレス→彩色→撮影→編集→録音、という感じに進むんですけど、以降は、その流れに従って書いてきます。

脚本・絵コンテ

普通、自主制作アニメで、脚本は書きません。数分だとストーリーはほとんど表現できないので、書いても裏設定にしかならないんですよ。じゃあ、脚本家が主人公の『アニメアライブ』が、まるっきり嘘かというとそんなことはなくて、ああいう感じの会議はやります。やるんだけど、絵コンテぐらいのものがないと、議論にならないのよね。実際、『アニメアライブ』でも、「上映時間の半分をヒロインが疾走するシーンに割り当てる」というのが作品のキモなんだけど、事前に用意したプロットではそこは表現できてなくて、結局、ほとんど役に立ってない。ただ、だからこそ、そこで、けーすけが意図を説明し、キャラ同士の会話が広がって、あのシーン自体は、いい表現になっているんですが。

いや、『アニメアライブ』は、本来不要な脚本家が主人公だったり、作画担当が一人しかいなかったり、必ずしもリアルに即して書かれてるわけではないんですが、逆に、各担当の役割をストーリー上で的確に生かすように、きちんと考えたキャラの配置になってるんですよね。フィクションとしては、正しい嘘のつき方で、これはこれで素晴らしい。

作画(原画、動画)

絵を描いていく手順は、まず、一つのカットの中でポイントとなる絵を何枚か描いて(原画)、さらに、その絵と絵の間を埋めるように描く(動画)、という手順で進めていきます。

原画を描くのは多少は絵が描けないとムリですが、動画マンは、自主制作アニメでも奴隷です。<をい。何千枚も描かなきゃいけないアニメ制作ですが、その大半は、そんなに技量を必要としない、だれにでもできる単純労働なんですよ。クリエイティブな仕事というより、とにかく人手であれば誰でも良く、何枚も何枚も休まず描き続ける根性のほうが重要だったりします。確かに、この作業がアニメ制作の中心ではあるんですが、『アニメアライブ』で動画マンをクリエーターの代表としているのは、正直、違和感を覚えます。

そんな単純作業の連続なので、『薄氷あられ』でも、『アニメアライブ』でも、動画作業は、ほとんどばっさり書かれてません。ただ、難しいカットだと、明確な技量が必要で、そこはマジに技術職で専門職です。みんなで横並びに同じ作業をしてるんで、難しいカットって、『薄氷あられ』のように、個々人のスキルの差を、絶望的なまでに、感じさせられたりするんですよねー。

あと、描いた原画やら動画は、作画監督に手を入れられることもあります。一人で描いてる『アニメアライブ』は関係ないですが、『薄氷あられ』のほうは、せっかく描いた絵を、ぜんぶお姉ちゃんが書き直して、ぐぬぬ、みたいな展開があってもよかったかも。<をい

トレス

動画を、等幅のペンで、元の線からずれないように写し取る工程です。TVアニメだとセルに写し取っていきますが、セルは高価なので自主制作だと別の紙を用意して、そこに写し取っていきます。今はPCを使うので、ちょっと変わってそうな気がしますが。

アニ研だとペン入れ=トレスなので、アニ研の人間がイラストを描くと、強弱の弱い線の絵になりがちです。鉛筆で清書までしてそれをペンでなぞってく感じになる。そもそも、Gペンとか丸ペンとか基本使う機会がないので、ペン自体に慣れてないしなー。『薄氷あられ』では、この癖をアニメーターらしい絵といっていて、隆史が、意識して線に強弱つけているのも、そのためです。

彩色・撮影・編集

これは、今はどうやってるのか、さっぱりわかりません(^^;。

録音

『薄氷あられ』だと書いてないに等しいのだけど、わかるわぁ(笑)。アニ研に入るような人間って、どうしても絵を描くほうに偏るので、音に関してはおざなりです。声優が必要になるような作品は端から作らないし、BGMもてきとーなCDから拾ってくるとか、いっそ音を入れないか、そんな感じ。

『薄氷あられ』は、なんやかんやで自主制作では標準的な作品を作ってるように見えるんですが、『アニメアライブ』のクリエーターズプロジェクトは、声優の卵と音楽担当をちゃんと揃えて、その上で、バリバリ描けるアニメーターが一人で全部仕上げているので、むちゃくちゃクオリティ高そう。そこら辺の自主制作アニメのコンテストなら、わりとぶっちぎりで勝てるんじゃないかしらん。見てみてー。

[ 2012.10.15 ]