2022年 6月 13日
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KADOKAWA 角川スニーカー文庫
◆ VTuberのマイクに転身したら、推しが借金まみれのクズだった /小路燦 -
おもしろい、おもしろいんだけど、どうせなら、これ脚本にVTuberやれって話ですよ。まあ、設定ではなく本人ガチでないとおもしろくはないとは思うんだけどさー。
や、主人公がVTuberのマイクに転身するって物語なんですが、その物語そのものは中身らしい中身もなくどうでも良くて、あくまで、借金まみれのクズVTuber加々宮エリンがめたくそおもしろいという話。鏡の国からやってきた見習いメイドうさぎという設定で、実際は、借金まみれの愉快なクズって、リアルにYouTubeにいても絶対人気出るだろ。作中の描写もYouTubeライブを見てるのと違和感なく、ああ、この作者、フツーにVTuberにハマってる人だわ。ぶっ飛んだVTuberのやばいライブと爆損系FX実況を混ぜたような、そんな面白味がある。
そんなわけで、めちゃくちゃおもしろいんだけど、加々宮エリンのキャラが全てみたいな作品なので、これ、小説という媒体でやる必要あるか。やっぱりVTuberやれって話ですよ。いやまあ、これそのまま脚本にしてVTuberやっても、それでおもしろいかというと違うんだろうけどさー。
2022年 6月 21日
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KADOKAWA 電撃文庫
◆ とある科学の超電磁砲 /鎌池和馬 -
『とある科学の超電磁砲』コミック連載15周年を記念した、鎌池和馬によるノベライズ。原作者の鎌池和馬が美琴たちの日常を描くと言うコンセプトなんだけど、鎌池和馬って、絶望的に日常が描けないんだなぁ……。
まあ、記念の番外編にいろいろ言うのも野暮なんだけど、なんかイメージ違うのよ。いやー、『超電磁砲』って、美琴、黒子、佐天、初春が楽しくわいわいやってるイメージで、このノベライズの構成もこの四人ひとりづつに焦点を当てた構成なんだけど、うわー、鎌池和馬って、事件なりバトルさせないと話作れないんだな。特に、一番ページを割いている御坂美琴メインの中編「御坂美琴とお嬢の終わり」なんて、味方陣営に、美琴、黒子、操祈が揃っているにもかかわらず、格下の悪役を登場させてのピンチからの逆転劇って、プロット時点でこんなん、おもしろくなるわけないだろー。
まあ、鎌池和馬の視点はやっぱり新鮮で、メガネで巨乳なムサシノ牛乳の先輩や初春の新しい魅力を見せたりしてる辺りはおもしろかったけれど、うーん、鎌池和馬の作風だと、やっぱ、『超電磁砲』はシンドイなー。特に、佐天さんはバトルに参加させらないせいで、佐天さんの良さが全然活かせてない気がする。
[ とある魔術の禁書目録 ]
2022年 6月 29日
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KADOKAWA 電撃文庫
◆ 竜殺しのブリュンヒルド /東崎惟子 -
最高傑作級。はじめから哀しい結末が明らかなのだけど、その哀しい結末に向けて、一歩づつ着実に進んでいくそんな作品。誰も救われない物語が、ただただせつなく、そして美しい。
第28回電撃小説大賞《銀賞》受賞の本格ファンタジー。一冊で完結している作品を新人賞の受賞作に選ぶのも、なかなか凄いよね。内容は、竜に育てられた少女が、人間社会で人の暖かさを学びながら、それでも竜を殺した実父への復讐にいたる、そんな物語。誰の想いも絶望的にすれ違っていて、しかも、絶望的にすれ違っていることを理解し、そして、哀しい結末に至ることをわかりながらも、それでもそうせずにはいられない、これ以外の選択肢はあり得ない、それが、ただただせつない。いやー、この物語、下手にハッピーエンドにでもしたら、途端に駄作に堕ちると思うのだけど、きちんと哀しい物語として容赦無く描き切ったのが、とにかく素晴らしい。序章と終章がまた美しい。間違いなく傑作だよね。
[ 竜殺しのブリュンヒルド ]