好きなら、言っちゃえ!! 告白しちゃえ!! - 2023年6月


2023 6 4

KADOKAWA 電撃文庫
ウィザーズ・ブレインIX 破滅の星(下) /三枝零一

いろいろと納得できず消化不良で、どうにも読むのに時間がかかってしまったのだけど、……クソじゃね?

いや、好きな作品なので肯定的に解釈したかったのだけど、どうにも酷い。前巻のラストで、ろくに説明もなく「シティ連合側も賢人会議を絶滅させれば生き残れる」と言い出した時点で違和感を感じてたのだけど、流石にいろいろと納得させるだけの説明や描写が足りず、あまりに雑だ。人類側も魔法士側も今すぐ相手側を殲滅しないと生き残れないという構図を作りたい作者の意図はわかるんだけど、もうちょっと丁寧にやろうよ。で、世界再生機構も「これ以上犠牲が出ると停戦は不可能になる」みたいなことを言い出すんだけど、今までの戦闘ですでに血が流れすぎていて、今更、多少犠牲が増えても変わらねぇよ。シティ二つ潰してるんだぜ? もう、そんなラインはとっくに超えてるんだよ。

これだけ世界が追い込まれた状況を作ってしまうと、ほんと、ここから「想い」だけで人類と魔法士が協力しましょうと言い出しても、凄く軽いんだわ。これもぜんぜん描写も過程も足りない。いや、人類も魔法士も、互いを殲滅しないと、明日には絶滅しそうな勢いで追い込まれてるんだよ? このタイミングで協力できるんなら、状況的にはシティが同盟を結成する時とか前回のベルリンの決戦の時の方が遥かにハードルは低くて、あの時、苦悩していたルジュナさんとかなんだったの?って話ですよ。台無しですよ。

練をはじめ世界再生機構も、この段になって展望ゼロでそういう選択とっても、単に自己満足で人類滅ぼそうとしてるだけのすげー利己的なバカにしか見えない。いやー、「いつか」とか言ってるけど、人類、魔法士双方とも限界まで追い込まれてて明日滅ぶかもしれないんですけど? マサチューセッツの支援ひとつとっても、もう、人類、魔法士双方ともリソース全然残ってないはずで、協力してなんとかなるレベル超えてるんですけど? もう何もかもどーしようもなくて、だから、みんな苦悩してたわけでしょ? いろいろと、あまりに雑で軽くない? そして、ラストでサクラさんも何言っちゃてんのよ。

まあ、もちろん、こんな不満も最終巻で全部解消させてくれると信じてはいるのだけど、最終巻は秋、半年後かー。

[ ウィザーズ・ブレイン ]


2023 6 12

オーバーラップ オーバーラップ文庫
信者ゼロの女神サマと始める異世界攻略 11.救世の英雄と魔の支配(下) /大崎アイル

「千年前」編、シリーズ通しても、やっぱ飛び抜けておもしろいんだよな。元々の主要ヒロインが出てこないんだけど、むしろ、モモとアンナさん、イラ様の三人がマジに強力すぎるっ!!!

そういうわけで、10巻から引き続きの「千年前」編。現代に戻る方法もわからないまま、千年前に一人旅立ち大魔王と対決するという熱い展開なのだけど、実態は、アンナさんとのラブコメ回。ていうか、マコトも強くなりすぎて、戦闘に関しては、ほぼほぼ心配ないからな。それよりも、やっぱりラブコメが楽しくて、未来に恋人を残しているにも関わらずのこの面白さよ。告白からの展開とか、ラストのモモとか、ほんと素晴らしい。そして、コメディ要素多めのイラ様とのやり取りも最高よな。

そして、次巻からいよいよ最終章か。もはや、元のヒロインたちは影が薄くなった気がするけれど、大丈夫か(笑)。

[ 信者ゼロの女神サマと始める異世界攻略 ]


2023 6 26

新潮社 新潮文庫nex
世界でいちばん透きとおった物語 /杉井光

すげー、すげーよ、杉井光。これは、絶賛するわ。絶賛せずにはいられない。マジすげー。

電撃文庫作家の杉井光が、珍しくラノベ界隈以外でも話題をさらっている一冊。「ネタバレ厳禁」とか「衝撃のラスト」とか言われているのだけど、この仕掛けはマジに凄いわ。さんざん煽れれていたので身構えて読み進めていたにも関わらず、気づいた時の衝撃がマジ半端ない。杉井光、まじ凄いな。

物語は、大御所作家の隠し子の少年が初めて会う兄の依頼で父の遺稿を探す、というミステリ。主人公はいつもの杉井光の書く主人公なのだけど、いまいち探偵役のヒロインの存在感が薄いので、今までの杉井光の作品と比べるとちょっと違和感ある。愉快な会話を繰り広げたりするわけじゃないしね。この作品に合わせて“素材”という言い方をすると、例えば、『楽園ノイズ』とかの方が全然おもしろいし、ストーリーもちょっと微妙で無理がある感じは否めない。

ところが、一冊通してみると、丁寧に作り込まれた内容が凄い。ラストの衝撃的で感動的な結末がとにかく素晴らしい。最高の物語だと思う。

ただ、少し気になるのは、ここまでこだわった作りなのに、「あとがきにかえて」は、あそこを読ませたいのはわかるのだけど、透きとおった文章になってないのはどうなんだろう。それやると、流石にあからさますぎるからかな?

[ 世界でいちばん透きとおった物語 ]