ライトノベルの新潮流


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ライトノベルの新潮流 /石井ぜんじ/太田祥暉/松浦恵介

ライトノベルの黎明期から2021年までを詳細に解説した一冊。なるほど、今まで読んできたライトノベル本の中ではツッコミどころが少なく、凄く違和感がない。なんというか、巻末の参考文献を元に綺麗に纏めなおしたような内容で、筆者自身の主義主張やこだわりをあんまり感じさせないような筆致なんだよね。そして、ラノベブロガーから編集者に転身した平和さんや「このライトノベルがすごい!」の岡田さんも協力しているのか。これは、手堅い。

特に、第一章は、自分が以前纏めた「ライトノベルの起源とその後の流れ(2015年版)」とか「平成のライトノベル史 いちご文庫戦争からなろうまで」と似たような視点になっていると思うんだけど、どうかしらかしら。読んでて、ほんとしっくりくる。

ただ、メインライターが「ゲーメスト」の編集長をしていた石井ぜんじということで、個人的には、今までのライトノベル本にない、ゲームに関連した新しい知見とかを期待していたのだけど、そういう新しい要素を感じられなかったのは、ちょっと残念。まあ、「ゲーメスト」というと、1990年代格闘ゲームという印象なんだけど、それだと、あんまりライトノベルとは関係ないかしらん。

個人的に気になったのは、少女小説がライトノベルの近似ジャンルとして別枠になってる件で、えー、少女小説を別枠にしちゃうと、1970年代から1980年代かけて、どうやってライトノベルらしいライトノベルが成立していったかみたいな話が、ぽっかり抜けちゃうじゃん。なのでこの本だと、ジュブナイルSFからソノラマ文庫が生まれた後に、1980年代後半にはファンタジーの影響を受けた角川スニーカー文庫や富士見ファンタジア文庫に取って代わられたと、単にそれだけになってる。いや、少女小説を別枠にするにしても、ライトノベル本なんだから、もっとライトノベルとの関連性を意識して書かないといかんのではないか?

少女小説に限らず、近似ジャンルの話がすごくもったいなくてさー、ライト文芸やジュブナイルポルノ、海外の話なんかも、あんだけページ数を割いて書いているのに、あくまで紹介にとどまってるのよ。ライトノベルとの影響とか関係とかにはあんまり踏み込んでいない。そこら辺は、本当に残念だと思う。

まあ、本の構成自体が、その時代その時代にこんなメディアがラノベの周辺にあって、その時にこういう人気作があったと事実をまとめるように書かれていて、筆者の主張や考察のようなものがあんまないのよね。なので踏み込むとかそういう話ではない気がする。ただ、そういう作りなのであれば、文章で綴るよりもむしろ年表のようなスタイルがいいんじゃね?と思ったりもするのだけど、でも、この本には年表がないんだよな。それもちょっとどうかと思う。

筆者の主張を抑えて参考文献を丁寧に纏めたといえば、それはそれで価値はあるし、そういうのが好きな人も多いと思うんだけど、個人的には、筆者の主義主張がはっきした内容の方が読んでいておもしろいと思うんだけどなー。

[ 2021.12.25 ]