『KADOKAWAのメディアミックス全史』を読んで

「ライトノベル史を語る上で欠かせない内容らしいのに非売品なので読めない」と話題だった本書が、BOOK☆WALKERで期間限定で無料配布ということで読んでみました。

著者はメディアワークス、角川グループホールディングスで社長をやっていた佐藤辰男。もともとは社史として社員向けに書かれたんだと思うのだけど、「KADOKAWAは後継者に川上量生を得て、今後、ますます発展する」みたいにも読める構成で、でも、その後の川上量生の社長退任とか夏野剛の社長就任までは語られてなくて、これ読んだら、KADOKAWAの社員は困るんじゃないか? まあ、大部分はコロナ前に書かれていたらしいんだけど。

そもそも、この社史を読むと、グループ内にここまで豊富な人材がいるのに、なんで外に人材を求めるんだ?と思わざるを得ない。角川歴彦のスティーブ・ジョブズ的なモノへの傾倒も語られているので、出版畑の人間ではなく川上量生や夏野剛に会社を託したくなる気持ちもわかるんだけど、でもさー、それって、角川春樹が映画に傾注して会社を傾けたように、角川歴彦もまたスティーブ・ジョブズ的なモノに目がくらんで会社傾けるんじゃないか?と非常に怖い。まあ、夏野剛のKADOKAWAの業績自体は悪くないのだけど。

と、最近10年ぐらいの話は、BOOK☆WALKERも海外進出もドワンゴとの提携も、成長率はともかく業績的にはそこまで結果を出してるわけではないし、そんなに面白い話ではないのだけど<をい、凄いのは、1990年代の角川書店のお家騒動からメディアワークスの設立までを、騒動のど真ん中の視点で描いてるんですよ。……角川お家騒動で電撃文庫が創刊され、角川スニーカー文庫と電撃文庫の泥沼の競争がその後のライトノベルの発展に寄与していくんで、ライトノベル史において非常に重要なイベントだったんですが、でも、KADOKAWAにとっては汚点でしかないアレを社史に書いていいんだ(笑)。ただ、編集者視点ではなく経営者視点なので、まあ、作品作りの変化みたい観点ではあまり語られてないのは残念。

さらに昔、1980年代の『コンプティーク』や『Newtype』辺りの創刊の話も面白かった。いやー、『Newtype』って、アニメブームもそろそろ終わりだよね、みたいなタイミングで登場したので、当時、創刊には違和感しかなかったのだけど、ああ、アニメブームの状況を見てたわけではなく、あくまでテレビや映画の周辺という視点しかなかったのか。『Newtype』は1985年創刊なのに、1980年代後半から1990年代前半にかけてのアニメ界への言及がごっそり抜けてる。『エルガイム』の次がいきなり『エヴァ』なんだよな。ただ、『Newtype』創刊のおかげで、サンライズから『ガンダム』の版権を獲得して初期のスニーカー文庫に貢献した、みたいな話は凄い。

ライトノベル的には、スニーカー文庫の創刊って、従来はファンタジーフェアの成功を受けて登場したといわれることが多かったのだけど、本書によれば、ファンタジーフェアの影響は小さく、むしろ、『コンプティーク』や『Newtype』のスピンオフなのか。そう考えると、スニーカー文庫って、従来のジュブナイル小説がアニメやゲームのエッセンスを取り込んでライトノベルになったみたいな言説と違って、ゲームやアニメ文化そのものの直系の子孫なんだな。これ、凄くない?

[ 2021.11.28 ]