ライト文芸の定義問題

ライトノベルと一般文芸の中間に位置するといわれるライト文芸ですが、各地の議論を見ていると思った以上にイメージにばらつきがあるように思えます。それを無理やり大きく二つに分けると、

  • 大人向けライトノベルがライト文芸だよ派
  • 20代女性向けライトミステリーこそがライト文芸だよ派

という感じでしょうか。ライト文芸の特徴は、ターゲットの年齢層や性別、萌え要素の大小の観点で語られることが多いのですが、ただ、ターゲットの年齢層に関していえば、すでにライトノベルの読者層が高年齢化してきていて、例えば、電撃文庫でも40代まで視野に入れてたり、Web小説のノベライズは30代が主要ターゲットだったりするんですけど、そのライトノベルの現状の読者層を知らずに議論している人も多く、このことがライト文芸の定義に関する混乱をさらに大きくしてるようにも思えます。

ダヴィンチニュースの ライト文芸の紹介記事 をはじめ、昨年からのライト文芸に関するニュースを見てると、ライト文芸は、おおよそ「『ビブリア古書堂の事件手帖』のフォロワー」という文脈で語られることが多く、そうであれば、広く大人向けのライトノベル全般を指す言葉ではないハズなんですよね。ただ、「ライト文芸」という真新しいキーワードが出てきたとたん、出版社や書店がこぞって売りたい作品を投げ込んでカオスになっている印象。アニメイトのブログによれば、ライト文芸を“『ログ・ホライズン』、『転生したらスライムだった件』、『幼女戦記』……などなど”と説明していて、これだと、『ビブリア古書堂の事件手帖』から続く20代女性向けのライトミステリーとは、かなり印象が違います。

もともと、90年代には「ジュニア小説」「ティーンズノベル」と呼ばれていた小説が、読者の年齢が上がったことで10代向けを意味する名前を捨てて「ライトノベル」と呼ばれるようになり、やがて、さらに年齢が上がったライトノベル読者をターゲットに各社挑戦していくのですが、富士見書房のStyle-Fや幻冬舎の幻狼ファンタジアなどの屍を超えて、ようやく当たった一つが『ビブリア古書堂の事件手帖』のようなライトミステリーを中心とした作品で、もう一つが『ログ・ホライズン』などのWeb小説のノベライズ。

ライトミステリーは「萌え」を抑えることで従来のライトノベル読者以外の層の取り込みに成功したと語られる一方、Web小説はスレイヤーズ時代のような異世界ファンタジーを大々的にプッシュすることで、かつてのライトノベル読者を呼び戻した、と言われています。この二つの流れの両方ともをライト文芸と呼ぶか、それとも、『ビブリア古書堂の事件手帖』を中心とした作品群だけをライト文芸と呼ぶか、どちらがコンセンサスを集めているんでしょ。

そいえば、Web小説の成功は、このようにスレイヤーズ世代の好みにうまく合致してたことが一つにあるのだけど、そもそもスレイヤーズ世代って、

  • 『スレイヤーズ』に代表される異世界ファンタジー全盛期にラノベにはまり、
  • その後、Leaf や Key などの萌えゲーに どっぷり浸かってた世代

なんですよね。つまり、萌え萌え異世界ファンタジーがめちゃくちゃ好きな世代じゃねーかっ!! ……あ、このスレイヤーズ世代が好きなライトノベルって、若い子から、「最近のラノベwww」と馬鹿にされてるヤツだ。そう考えると、ライトノベル全体がスレイヤーズ世代の好みに調教されているとも言えて、えっと、ライト文芸が大人向けライトノベルか否か以前に、大人向けライトノベルとふつうのライトノベルを区別する意味ってあるんでしたっけ?

[ 2016.08.24 ]