日本のライトノベルとアメリカのヤングアダルトの違い
ニューズウィーク日本版で、アメリカでのヤングアダルトとライトノベルに関して書かれた記事が話題になっています。
まずはじめに、「ヤングアダルト」と「ライトノベル」の定義を整理するとおおよそ以下の通り。似たようなジャンルを指す言葉です。
- ヤングアダルト: 高校生を中心とした若者向けの本(小説以外も含む)
- ライトノベル: 高校生を中心とした若者向けのエンターテイメント小説
ところが、アメリカと日本では、この若者向けのジャンルに、かなり差があるというのが上のニューズウィーク日本版の記事。これらの記事から、特にアメリカのヤングアダルトに特徴的な要素を抜き出すと、以下のような感じでしょうか。
- 「アメリカ図書館協会」の影響が強い
- 1冊のページ数が多い。つまり、若者向けに単価を下げる意識が薄い
- 啓蒙的な内容のものが多く、純粋なエンターテイメントになっていない
つまり、アメリカのヤングアダルトって、「若者が読みたい本」ではなく「大人が読ませたい本」で、若者が直接購入することは想定せず、図書館が購入することを前提してるように見えます。まるで、日本の児童書のように、より低年齢層向けの本みたいじゃないですか。
ちなみに、「アメリカではライトノベルは若者向けとはみなされない」とのことですが、アメリカのヤングアダルトが日本に上陸した場合も同じです。基本的に、海外文学のレーベルから出版されることが多く、日本の若者向けの本とは区別されます。
エンターテイメントに特化して成長した日本の若者向けの小説
日本で、高校生を中心とした若者向けの小説は、1970年代に登場し、1980年代に今のライトノベルのようなスタイルになったことが知られています。主な特徴は、
- 若者でも買いやすい値段の文庫サイズ
- 若者が共感しやすい若手作家の積極的な登用
- 若者が好む漫画やゲーム的な要素の導入
と、つまり、「若者に買ってもらうこと」に特化しています。アメリカのように、図書館員への配慮はかけらもありません。
もともと日本の若者向けの小説は、「子供向けでは物足りないが、おじさんおばさん向けの本はつまらない」という層に向けて書かれたものです。若手作家が自分たちの好きに書く、というのがまず前提にあり、頭の固い大人に理解できないのは当たり前で、PTAが眉を顰める表現も上等。大人の顔色を見て「美少女」の表紙を採用しないぐらいなら、そもそも漫画をイメージさせるような装丁にするわけないだろ、って話です。
むしろアメリカでは、高校生になっても大人の選んだ本を読んでいるということで、そんな本で満足してるの? と、もうビックリです。
日本におけるライトノベルとヤングアダルトの関係
日本では、かつてライトノベルをヤングアダルトと呼んでいましたが、2018年現在のライトノベルとヤングアダルトの関係は多少複雑でわかりづらいです。
簡単にまとめると、
- 大人向けのライトノベルも登場しており、「若者向け」とは言い切れない
- ライトノベルとは異なるジャンルを YA(ヤングアダルト) と呼ぶ場合もある
となります。だいたい、読者の年齢層が高くなったせいです。
「ライトノベル」という言葉は、パソコン通信のニフティサーブで名づけられたことが知られています。若者向けの小説ジャンルを呼ぶ際に、「ヤングアダルトではヤングのためのアダルト小説と誤解されてしまう」とわざわざ新しい言葉を作ったとのこと。ただ、しばらくの間は、あくまでニフティサーブローカルの方言でした。
広く「ライトノベル」と呼ばれるようになったのは、2000年代初頭。読者の年齢が上がるにつれて、「若い大人」を意味するヤングアダルトに対する違和感が提示されるようになり、「ライトノベル」と呼ぶ人が増えていきました。やがて、新聞や雑誌でも「ライトノベル」という呼び方が採用されたことによって、広く一般化した、という流れです。
「ライトノベル」の呼び方が定着すると、やがて、20代以上を対象としたライトノベルも登場してきます。一方、児童書とライトノベルの中間的なレーベルの中から、“YA”を強調するレーベルが出てきます。ヤングのためのアダルト小説と誤解されてしまうため、略語の“YA”を前面に出して、まるで新ジャンルの小説のようにっ!! そのため、日本でYA(ヤングアダルト)といった場合、ライトノベルを含む若者向けの本の総称を指す場合と、ライトノベルを除いた若者向けの本の一部ジャンルを指す場合があります。めんどくさい。
[ 2018.06.25 ]