古参ラノベ読みが感じるなろう系とおすすめの作品

ここ1年でWeb発のライトノベルを読む機会が増えたのと、最近、「小説家になろう」のラインキング上位作品を読み漁っていたので、「なろう系」つまり「小説家になろう」に代表されるWeb小説を読んだ所感とおススメをまとめておきたいと思います。

と、その前に、なろう系の小説は、電撃文庫などの伝統的なライトノベルと読者層が異なります。伝統的なライトノベルのメインターゲットが10歳後半~20歳前半なのに対し、「小説家になろう」利用者のボリュームゾーンは20代。「カクヨム」だと30歳前後。さらに、それらを専門に書籍化しているレーベルの多くは、30代以上をターゲットとしてます。つまり、なろう系は大人向けなんです。伝統的なラノベレーベルでも、その読者層を狙って、続々と大人向けになろう系単行本レーベルを立ち上げているのが今年2017年のトレンドのひとつになっています。

で、「小説家になろう」をランキングを中心に読んでいくと、思ってたよりもとにかくバラエティが豊富なことに驚きます。なので、たぶん、読んだ作品の種類によって、大きく感想も変わると思うんですが、ま、あくまで現時点で、私が読んだ範囲の感想ということで書いてきます。ただ、「異世界転生俺THUEEEEばかりでつまらない」という人をたまに見かけますが、これだけいろんなタイプの作品に溢れているのに、そういうことを言うヤツはほんとバカじゃね? と、それはともかく、それでも特徴的に感じたことを並べると、

  • 文章は非常に読みやすい
  • 描写は控えめ
  • 軽くコミカルな作品が多い
  • はじめから長編シリーズを想定してるものも多い
  • スロースタート

Web小説マジ読みやすいです。ラノベの新人賞デビュー作で見かけるような「いろいろ書こうとしているけれどめちゃ読みにくい作品」というのは、Web小説だとほぼ見かけません。まあ、読みにくい作品がランキング上位にくるとは思えないので、ランキング下位の作品まで読むようになると、また印象が変わるかもしれませんが。また、伝統的なライトノベルでは、初めから長期シリーズ前提の作品は商業的な理由でほとんどないのだけど、そういう作品が普通にあるのは、Web小説ならではの魅力ですね。

スロースタートというのは、商業出版では、「序盤に見せ場を用意して読者をひきつける」というのが基本なんだけど、Web小説だとそれがない作品が多いです。なので、本屋で本を選ぶ感覚で序盤を読みはじめると、なかなか見せ場が来ないので戸惑うことがままありました。なので、お気に入りの作品を探すのはなかなか大変だと思うのだけど、歴戦のなろう読者は、どうやって好みの作品を探してるんでしょうか?

おすすめのWeb小説

ここ1年ぐらいで読んだWeb発の小説の中でおすすめの作品を挙げてみます。まあ、今年読んだラノベの中では、Web発の小説のお気に入り度が高く、2017年私的ベストとほぼイコールとなってしまうんですが(^^;。あ、せっかくだから、「好きラノ」の2017年下期 の投票も兼ねときます。

本好きの下剋上 /香月美夜 (小説家になろう)

「好きラノ」「このラノ」など、ライトノベルの人気投票で軒並み一位を獲得したのでご存知の方も多いと思うのですが、今、一番人気があるライトノベルの一つ。読書狂の女子大学生が本が希少な中世ヨーロッパ風世界に転生し、本を読むために試行錯誤していく物語。印象としては、一昔前の少女小説に近く、私的には、特に『彩雲国物語』に近いように感じています。主人公が運命の翻弄されて逆境に陥っても努力して成り上がっていく辺りは、いかにも一昔前にあった少女小説の主人公といった感じ。まあ、主人公のマインの思考は独特で、感情移入するタイプの女の子ではない気がしますが。
【17下期ラノベ投票/9784864726344】

始まりの魔法使い /石之宮カント (カクヨム)

異世界転生で、竜に生まれ変わるパターン。人間に比べて長寿である「竜」に転生するという設定を非常にうまく使っていて、発展していく人間社会と寿命が異なる故の悲哀を綺麗に描いた傑作。富士見ファンタジア文庫から出てることもあって、あまりなろう系らしさはなく(元は「カクヨム」というのもあるかもだけど)、描写などもクオリティは高い。とにかく感動的な恋愛ストーリーは、おすすめ。
【17下期ラノベ投票/9784040722979】

回復術士のやり直し /月夜涙 (小説家になろう)

1周目では薬漬けにされいいように使われていた回復職の勇者が、2周目の人生でそういう扱いをした他の勇者に復讐を果たす物語。エログロありの容赦ない報復は、コミカルで軽い作品が多いなろう系の中では、明らかに異質。というよりも、レギュレーション的に、ほんとに「小説家になろう」に掲載してて大丈夫なのか!? クオリティについも、なろう系の中では一線を隔しており、ダークヒーローものとして異色の出来だと思う。
【17下期ラノベ投票/9784041056806】

おきらく女魔導士とメイド人形の開拓記 /佐々木さざめき (小説家になろう)

軽くコミカルで読みやすい、いかにもなろう系らしい作品。もちろんチート。ただ、異世界転生ではなく、2000年寝ていたうちに文明が崩壊してたパターン。主人公は天才魔法少女で、本人はのんびり暮らすために生活環境を改善してるだけのつもりなのに、結果として、文明を再生し国を作ってしまうのが面白い。おきらくな女主人公による一人称の筆致と、軽くさくさく進むストーリが非常にマッチしていて、おすすめです。
【17下期ラノベ投票/9784797392333】

うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない。 (小説家になろう)

森で親と死に別れていた少女を保護したことから始まる異世界ファンタジー。おそらくラストまでプロットを組み立てた上で書かれたであろう物語は、非常に綺麗で感動的。私的には、1990年代のライトノベル的な匂いがするようにも感じられて、なろう系の異世界ファンタジーというより、一昔前のファンタジーを求める層におすすめしたいような作品です。
【17下期ラノベ投票/9784798615011】

[ 2017.12.28 ]