平成のライトノベルとスレイヤーズ

先日書いた「平成のライトノベル史」ではあまり触れなかったのだけど、やはり平成のライトノベルにとっては、『スレイヤーズ』の影響が大きすぎると思うのですよ。そこで、ちょっと『スレイヤーズ』と平成のライトノベルの関係について書いてみたいと思います。

『スレイヤーズ』は、第1回ファンタジア長編小説大賞の準入選受賞作。平成元年(1989年)に雑誌『ドラゴンマガジン』上で発表され、平成2年(1990年)に第1巻『スレイヤーズ!』が刊行。以降、本編16冊、外伝が35冊ほど出ている人気シリーズです。本編は2000年に一度終了したものの、2018年に復活。外伝は2011年ぐらいまで出てたんだっけか? 累計発行部数は公称2,000万部で『禁書』や『SAO』に次ぐ売り上げを誇ってます(って、『禁書』が史上一番売れてるラノベってことなんだよな)。アニメやゲーム化ももちろんされていて、特に、TVアニメは、1995~1997年にかけて3部、2008~2009年に2部の計5部が放映されています。

ライトノベルへの影響を考えると、そもそも、ライトノベルと聞いて多くの人が思い浮かべるのって「中高生向けで、表紙がアニメ調で、ゲームみたいな異世界が舞台で、主人公が好き放題する軽い小説」という辺りだと思うのですが、これって、『スレイヤーズ』そのままなんですよ。『ブギーポップ』や『涼宮ハルヒ』『禁書』『SAO』という大ヒットラノベがあるにもかかわらず、ライトノベル=異世界ファンタジーという人が意外に多い。まあ、ライトノベル=異世界ファンタジーというイメージは、最近のなろう系の隆盛の影響もあるとはいえ、それでも、ちょっと『スレイヤーズ』の存在感って、大きすぎるほど大きいですよね。

で、『スレイヤーズ』というと、RPGのパロディ、ゲーム的な異世界ファンタジーのパイオニアとして語られることが多いのですが、それだけでなく、富士見ファンタジア文庫が創刊したのと同時に行われた新人賞から出版されヒットを飛ばした作品ということで、ライトノベルにおける成功のモデルケースとなったことによる影響も大きいです。新人賞を中心にした作家の発掘する仕組みや長編シリーズと短編シリーズの両輪で出版していくスタイルにも大きく寄与していると言っていいかと思います。また、「ライトノベル」という言葉自体が『スレイヤーズ』が発表された翌年であることを考えると、「ライトノベル」という命名そのものにも少なからず影響を与えていると思うんですよね。

『スレイヤーズ』登場前、昭和時代の代表的なライトノベル『ダーティペア』や『キマイラ』『吸血鬼ハンターD』『銀河英雄伝説』『ロードス島戦記』辺りを思い浮かべながら考えると、『スレイヤーズ』の影響としては以下のようなことが言えるのではないでしょうか?

  • ゲーム的な異世界ファンタジーのパイオニア
  • 魅力的なキャラとコミカルな作風の走り
  • 読書好きの高校生中心の読者層から中高生全体へと読者層を拡大させた
  • アニメ好きに訴求するようなイラストの導入
  • 新人発掘の場としての新人賞の確立
  • 長編シリーズと短編シリーズで出していくという出版スタイルの先駆け
  • おそらく「ライトノベル」という名称そのものに大きな影響を与えている

まあ、個々に見ていくと、『スレイヤーズ』よりも古い事例はたくさんあるんですが、これらの要素を組み合わせて「ラノベらしさ」を確立させたのが『スレイヤーズ』だと思うんですよね。そういう意味では、『スレイヤーズ』が登場しなければ、今の「ライトノベル」は全然違ったものになっていたかと思います。

また、なろう系を読む大人世代がちょうど『スレイヤーズ』が最も売れていた90年代にライトノベルを読んでいた世代であることを考えると、今のなろうブームの一因にも『スレイヤーズ』が位置しているように思います。……いや、なろう系のヒットは、『スレイヤーズ』よりも『ゼロの使い魔』の影響のほうがが大きい気もして、そこら辺、どうなんですかね?

[ 2019.04.30 ]