『桜坂ノスタルジア』感想
柊あおいの久々の恋愛物語『桜坂ノスタルジア』、電子書籍のみだけど、いつの間にか出てたのかっ!! や、少女向けファッション雑誌「ピチレモン」の創刊30周年記念企画としてはじまったものの、途中から雑誌掲載は中断されてWeb掲載のみになったり、実質打ち切りみたいな状況になっていたので、正直、単行本の形で一冊にまとまって発売されるとは思ってなかったよ。……電子書籍だけだけどなー。
で、この『桜坂ノスタルジア』、「ピチレモン」創刊30周年記念企画として、30年前、読者の母親世代の恋愛を描くというコンセプトの作品。「ケータイもメールもない時代の恋愛って…?」というキャッチフレーズなのだけど、そういう時代を感じさせるような描写があるわけではなく、また、“ジブリ映画『耳をすませば』の作者”として期待されたであろう、あの映画を感じさせるような描写があるわけでなく、どうみても「ピチレモン」としては、完全に企画倒れのような作品になっちゃってるのよ。ただ、柊あおい黄金時代の『星の瞳のシルエット』『(漫画版の)耳をすませば』『銀色のハーモニー』を感じさせる内容で、柊あおいファンとしては、たまらない作品に仕上がっています。
柊あおい定番の女子三人、男子二人の人物構成。主人公・夕姫の百面相は、『耳すま』の雫そのまんまだし、降矢、都築との出会いや関係は、『耳すま』の雫、航司、聖司の関係そのもの。降矢の成績優秀で映画制作という夢を追いかけるという部分は、絵描きを目指す聖司やピアニストを目指す『銀ハモ』の海を彷彿とさせ、夕姫の友人となる美涼と綾菜は、『星の瞳』のおケイや真理子を感じさせる。この5人が自主制作映画を作り始めるのですが、柊あおいの連載作品には、同じく自主制作映画を題材とした『ペパーミント・グラフィティ』があったりするわけじゃないですかっ。
物語としてはコミカル寄りで、当時のような詩的でリリカルな表現や空気感はなくて、そもそも恋愛未満のまま終わってしまっていて残念でしかたないのだけど、でも、ほぼ20年ぶりに柊あおいファンが求めていた「りぼん」時代の柊あおいを感じさせる作品になっている。正直、当時の柊あおいファンしか楽しめない作品のような気もするのだけど、柊あおいファンにとっては、20年ぶりの同窓会のような作品。とにかく懐かしさがたまらないっ!!
[ 2016.08.09 ]